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「真向法」の効用   岡部陽二

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真向法の効用PDF

 毎朝、「真向法」というストレッチ体操を、10分から20分ほど掛けて行なっている。

 「真向法」とは、次の4つの型の屈伸運動を組み合わせた至極簡単な体操である。

膝を開いて座り、足の裏を上に向け、息を吐きながら上体を前に倒していく。両足の膝までぴったりと床に付け、背中をまっすぐに保つ。
②足を前に投げ出して座り、足首を直角に立て、息を吐きながら手を足首の先までまっすぐ伸ばす。
③足を開脚し、足首を立て、正面を向いたまま、床にお腹と胸をできるかぎり近づけていく。
④正座して両足をお尻の幅だけ開いて割り座したあと、足首がぴったり床に付くように、静かに体を後ろに倒す。手を伸ばして約1分間、腹式呼吸をする。

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 このたった4つの動作を毎日5分から10分ほど行う。、ただし、これを毎日欠かさず続けることがポイントであり、「継続すること」が必須である。この体操は誰でもいつでも畳1枚ほどの広さがあれば取り組める。雨の日はジョッギングができないとか、プールがないと泳げないとか、いった言い訳は許されない。

 真向法は、創始者である長井津 (ながい・わたる、1889~1963)先生が創案されたものである。長井先生は明治22年、福井市生まれで、上京後、大倉財閥を一代で築いた大倉喜八郎に師事して商売に励み、地位も財産も手に入れた。ところが、42歳の時に脳溢血で倒れ、半身不随になり、失意のまま里帰りしてしばらく希望のない生活を送っておられた。そこで、漫然と死を待つより、心だけでも救われたいと経典を読み込むようになり、経典の中のある「頭面接足礼(ずめんせっそくれい)」という言葉に出会った。古代インドの礼法の1つで、両手を伸ばして掌で相手の足を受け、相手の足に自分の額をつけ、拝む動作である。これを実際にご自分でもやってみようと試みたものの、手も足も硬く、曲げようにも曲がらない。長井先生は「この体の硬さこそが脳溢血を引き起こした」と悟り、それから3年、少しずつ体を柔軟にし、その結果、硬直しきっていた腰が柔らかくなり、不自由だった下半身の動きが大きく改善した。               


 そこで、この体操を運動不足のサラリーマンなど全国民にも広げようと、仲間を募って全国行脚を始められたのである。その後、理論的にも体系づけられ、筋肉を若々しく、血流をスムーズにし、消化を助け、免疫力の増強やストレスの解消、熟睡、老化防止、心の病、頭脳の活性化などまで様々な効果があるとして、真向法協会が設立され、文部科学省の許可団体になった。

 故安岡正篤先生も、真向法を「新興宗教でもない、社会運動でもない、いわゆる新生活運動でもない。ここに一つ、新しい熱烈な人間救済の健康運動とその同志がある。真向法と長井津翁である。世に偉大な効験を実現している。」と激賞しておられる。

 健康オタクはせっかちで、成果を早く求めるが、本質的な体質改善は一朝一夕にはできない。真向法は、日本が世界に誇り得るフィットネスの原点と言えよう。

 人間は老化するに従って「持久力」「瞬発力」「筋力」はどんな人でも少しずつ衰えていくが、「柔軟性」だけは年をとっても向上させ続けることが出来る。よく「自分は生まれつき体が硬くて」と言う人がいるが、そんなことはない。筋肉を使っていないだけである。真向法の第一の狙いは姿勢をよくして、柔軟性を保つことである。姿勢が悪ければ血流の流れは悪化し、脊髄や神経も圧迫され、内臓の機能低下などさまざまな病気を引き起こす原因になるからである。

 誰しも40歳代になると、休日に無理に運動して怪我をするケースも少なくない。40歳を過ぎたら筋肉を鍛えるより柔らかくする方を優先すべきである。真向法の効用はまさにそこにある。もちろん、60歳代からでも遅くはない。

 私の真向法との出会いは40歳~50歳代を通じて終始腰痛に悩まされてきたことにある。ロンドン勤務の1980年代後半には腰が痛くて歩行にも困難を来たして難渋した。パリ出張中に歩けなくなり、やっとホテルに辿り着いてコンシェルジュに訴えたところ、筋骨隆々としたカイロ・プラクチシャンを呼んでくれて、レスリングの蝦固めのような荒業で応急的に治してもらった経験もした。

 腰痛に効くと聞けば、整形外科はもとより、鍼やマッサージなどもいろいろ試したが、効果は挙がらず、悩んでいたところ、職場の同僚から真向法を強く勧められた。当時はネットもCDもない時代であったので、朝日ソノラマの画像レコード盤を買ってきて、見様見真似の自己流で始めた。1992年に帰国後は、証券経済倶楽部のサービス事業として、真向法の出張指導が行われていたので参加、その後は渋谷の協会本部へ時々通っている。その結果、今でも時折腰が痛むことはあるものの、その頻度は激減しており、真向法の効果はてき面に効いている。

 加えて、昨年3月には社団法人・真向法協会から「真向法・9段」の免状を授与していただいた。免状には「真向法体操を研鑽練磨され、その心技体ともに神技と認めます」とある。「神技」とは、我ながら驚いている。

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 この免状の値打ちは、1段昇段するのに原則として3年間継続して真向法体操を実践してきた実績がないと貰えないところにある。私は35年前にロンドン在勤中にこの体操を始め、1992年に帰国して以来、真向法協会の会員となって30年余りになる。再来年に最高位の10段をいただく目標があり、これが励みになっている。

 英国在勤中には週末のゴルフも腰痛を抱えての難行苦行で、腕前も上がらなかったが、83歳でホールインワンを達成、89歳になる今日まで何とかゴルフを続けられているのは、真向法のお陰そのものと感謝している。


(元住友銀行専務取締役、元広島国際大学教授)

(2023年7月25日発行、日本工業倶楽部「会報」第285号、p17~20所収)









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