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<書評>デービット・コーテン著、田村勝省訳「大転換~帝国から地球共同体へ」

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 米国が建国時に理想とした民主主義社会の構築と維持を怠って、帝国的野心による支配を続けてきた結果が、イラクをはじめとする多くの戦争などへの政治的介入、企業のグローバル化による貪欲な世界市場支配に行き着いた。国内では生産を捨てて輸入に頼った結果、産業が空洞化、国民を借金漬けにしてバブルと失業を招き、国民は窮乏化した。本書は、このような状況は続きようがなく、やがて崩壊するとして、これを本来の姿に「大転換」する道筋を論じた570頁を超える大著である。

 この「大転換」の仕事をするには、米国民は帝国が招いた疎外と抑圧から自らを解放することが必要である。と同時に個々人とコミュニテイーの両方が創造的な潜在力を高めるような形ですべての人々が協力し、帝国が横取りした権力を家庭やコミュニテイーに取り戻して新しい時代を創り直すことにより、全国民が地球共同体の喜びを分かち合うようにしなければならない。その実現は難しいことではない、全国民が意識改革をして、その生活と責任のためのストーリーを変えればよいのであると、コーテン博士は説いている。

 本書は、「グローバル経済という怪物~人間不在の世界から市民社会の復権へ」(1999年に邦訳刊行)などの著作で著名な文明評論家で、自らも"Positive Future Network"を創設して理想社会の実現に向けての啓発活動に専念しているデービット・コーテン博士が、2006年に書き上げたものである。その2年後に、米国発の世界経済危機とオバマ政権の誕生という大きな出来事が起こり、まさに彼の予言が的中している。

 日本語版の序文では、「米国と世界にとってより重要なのは、バラク・オバマが並外れた知性だけでなく、情緒的な成熟性、若者のような活力、多文化的な世界観、切迫した社会的・環境的なニーズに取り組むというコミットメントを合わせ持っていることであろう。さらに、深い変革への道に導いていくためにはボトムアップ型の草の根運動の役割が必要不可欠であるということも彼は認識しているようだ」とオバマ新大統領に高い評価を与えている。

 コーテン博士は、永年にわたって世界各地で、変革に挑戦しようとする地域社会を勇気づける仕事に関わってきた。その結論として、博士はトップダウン方式の中央集権的組織ではなく、草の根から湧き出てくる人々のエネルギーで、アメリカ建国当時に理想とした姿の民主的な社会建設すべきであるとの信念を持つに到ったものである。金融については、貪欲と欺瞞に満ち溢れている「ウォール・ストリート」の利益を考えるのではなく、地域における財やサービスの生産と交換に従事している地方企業や労働者の利益になる「メイン・ストリート」金融を育成すべしと主唱している。

 これは何もアメリカだけの問題ではない。本書は、まさにわが国が直面している最も重要な「大転換」のモデルとその実現への道筋を示してくれる社会構造改革の羅針盤となるものである。

大転換~帝国から地球共同体へ (The Great Turning-From Empire to Earth Community)
デービット・コーテン著、田村勝省訳、一灯舎刊、オーム社発売、本体2,500円

(評者 岡部 陽二 医療経済研究機構専務理事)

 (2009年4月1日、財団法人・外国為替貿易研究会発行「国際金融」第1199号 p85所収)





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