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鉱物の研究 ~ ハンマー片手に四十年、好奇心が結実

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岡部陽二さん(明光証券会長)

自宅の車庫を特製の標本棚に改造

 岡部陽二さん(62歳)の自宅にある半地下の車庫には、車の代わりに数多くのが陳列されている。住友銀行ロンドン支店長の任期を終えて帰国した四年前、なんと石のために、この車庫付の家を買ったのだ。「石って重いから、日本の木造の家屋では、たくさん置くと床が落ちて来ちゃう。ここだったら地震が起きて上が潰れちゃっても大丈夫ですからね(笑)」

 京都に住んでいた中学三年生のころ。近くに鉱物の標本館があり、たまたまそこを覗いたのがきっかけだった。学校帰りに入り浸って鑑定の仕方などを教えてもらっているうちに、どんどん石の世界へ引き込まれていった。
 館長だった益富寿之助さんが主宰する『日本鉱物趣味の会』にも入会、大人に交じって、地質鉱物学の専門書を片手に顕微鏡で結晶の形を調べたり、劈開の微妙な違いを読み取ったりする訓練を受けた。
 以来、リュックサックを背負い、手にはハンマーとたがね、ルーペを首から下げて。クリノメーター(傾斜測定器)で石が出そうな場所を探しながら山を歩くのが一番の楽しみとなる。京都近郊だけでなく、近畿から中国地方にまでも足を運んだ。

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 住友銀行に入行後、しばらくは慣れない仕事に追われて石から遠ざかっていた岡部さんだが、ロンドンでの生活が鉱物への思いを再燃させることになる。
 「家屋も石造りが基本だし、ヨーロッパはの文化なのです。日本では見かけないの専門店や博物館があちこちにある。パリのキュリー夫妻大学の地下標本室は、ナポレオンが集めたというだけあって充実していました」
 自分の手で採集できる石には限りがあるため、「変わった石はありませんか」と専門店に聞いて回る。「要は分類学なのです。どれだけの種類が世の中に存在して、それぞれどう違うか比較研究する。だから水晶だったら、日本式双晶なんて変わったものもあるけれども、一つあれば十分なのです。要するに種類がたくさんないと意味がない。鉱物図鑑の索引をコピーしたリストを常にもって、珍しいものだけを探して歩いています。天文学の先生が、新星を発見して喜んでいるのと同じですよ(笑)」

子供のころからの熱心さが、ライフワークとして実ることもある。

七つ道具を携えて山をさまよったり、専門店を物色して歩いたり、たくさんの鉱物を集めて比較研究。

珍しい石と出合った喜びは新星を発見した天文学者なみ。

「なるべく自然の形で、それも自分で採集するのに越したことはないのですが...」

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 (1996年11月10日発行、「甦る!」1996年11月号22頁、<特集・酔生夢死の老いを迎えないために~われ、「研究」に勤しむ>に15人の研究家の一人として採上げられたインタビュー記事)

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