個別記事

31 個人投資家協会──個人投資家の育成に尽力


 銀行を退職したあたりから社外取締役就任の依頼を、いくつか受けるようになった。一般的には銀行が仲介するような形で社外取締役に就くケースが多いのだが、私の場合は銀行が関与したものは一つもなく、全て相手側から個人的に直接頼まれたものばかりであり、任期も不明確で長期化するものが多かった。

 例えば、広島県呉市で創業した砥石や研磨材メーカーのクレトイシ。二代目社長の高橋督さんが銀行時代の二年後輩である。ロンドン在勤中に娘さんのお世話を頼まれた経緯から結婚式に招かれ、ロンドンから一時帰国する都合に合わせて日取りをセットする、と言ってこられた。そんなわけで、てっきり私が主賓と思って出席したところ、隣に時の総理大臣であった宮澤喜一さんが座っておられたのにはびっくりした。しかも、宮澤さんは「後援会長の孫娘さんの結婚式ですから」とおっしゃって、披露宴の最後までおられた。おかげで博識で気さくな総理と英国の政治経済について一時間ほど親しくお話をさせて頂くことができた。話はやや逸れたが、そんな関係から銀行退職後の一九九五年(平成七年)にクレトイシの社外取締役に就いた。

 持ち帰り弁当の「ほっかほっか亭」などのフランチャイズを運営するハークスレイの社外取締役も青木達也社長との個人的なつながりによるものであった。同社には明光証券会長時代に顔を出していたが、「会長を辞めたら、ぜひ当社の社外取締役に」と頼まれ、その約束を果たすことになった。

 調剤薬局チェーンを大阪中心に展開しているプチファーマシストの社外取締役は、柳生美江社長が『医療サービス市場の勝者』を読んで共感してくれ、社外取締役にと望まれて、ボランティアで引き受けざるを得なくなった。

 就任して最も長いのが、フューチャーベンチャーキャピタルである。同社設立の一九九八年(平成十年)九月から社外役員を務めている。住友銀行時代の後輩であった川分陽二さんが設立した会社で、わずか三年でナスダック・ジャパン(現・ジャスダック)に上場したほどの急成長会社であった。

 川分さんは、私のロンドン在勤時代にアブダビに駐在しており、仕事上のことも含めて、いろいろな話をしているうちに親しくなった。彼は若くして銀行を退職し、日本アジア投資に転職、常務取締役にまで昇進したが、独立して自らベンチャーキャピタルを設立した。その設立を前に、私のところに相談に来て、いわばメンターとして関与したものである。

 ファシリティ パートナーズ、アルファクトの社外役員も結構長く続いている。いずれも以前から個人的に何らかの縁があってのものばかりである。

 明光証券を辞めた直後に就いたのが、NPO(特定非営利活動)法人日本個人投資家協会理事、二〇一五年(平成二十七年)からは副理事長である。

 このNPO法人は一九九五年(平成七年)に経済評論家の長谷川慶太郎さんが私財を投じて設立されたもので、少しでも賢い個人投資家になるための啓発活動や政策提言を行なうことを目的としている。

 個人投資家の存在は産業界への資金供給には欠くことのできない存在であり、産業界を支える基盤といわれて久しい。それにもかかわらず、個人投資家を積極的に育成しようという証券リテラシー教育の土壌がわが国には極めて乏しい。これを改善して、自己判断、自己責任を取ることのできる賢明な個人投資家を育成していこうとの思いを原点にスタートしたものである。

 明光証券会長時に奥寿夫事務局長から会社としての支援を頼まれたが、当時の証券会社には長期投資の視点での顧客教育を手助けしようといった意識は皆無であった。株価が少し上がれば売りを勧め、それよりも高い手数料が取れる投信を売りつけて、回転売買に注力していたからである。そこで、やむなく「会社としては支援できないが、辞めれば個人的には支援したい」と断ったところ、会長を辞めた途端に再び「応援してくれ」と頼まれ、理事に就任した。

 この役職も無給のボランティアで、寄付をするなど、むしろ持ち出しである。しかし、個人投資家を育成、支援することは証券市場の活性化、健全化に役立つと考え、協会の機関紙「ジャイコミ」には「投資教育」や「投資の羅針盤」と題した論説を毎月寄稿している。


180816175-追加150101投資の羅針盤.jpg

 国内の証券界とは別の世界での証券業務を長く経験してきただけに、私の目には証券業界の問題点がくっきりと浮き彫りになって見えるとも言えよう。もちろん、基本的には国策としての証券行政の問題という面もあり、英米で実現しているような個人投資家育成の道のりは「日暮れてなお遠し」との思いが強い。

 二〇一〇年(平成二十二年)からは「東証ペンクラブ」にも参加して、同様の活動を行なっている。

180816173-140509ハワイ島キラウエア火山見学時ヘリコプタ機内にて.jpg




コメント

※コメントは表示されません。

コメント:

ページトップへ戻る