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夫の命 ラベンダーに姿変え 宮軒瑛子

 最愛の夫が亡くなって5度目のラベンダーが咲いた。夫が定年退職後、初の海外旅行から帰ってすぐ、思いがけぬ病気で手術を受け、小康を保っていた半年余り後の初夏の日、二人で神戸のハーブ園に遊んだのを思い出す。いい香りを放つラベンダーの中を、童心にかえって手をつないでスキップができるまで元気になり、共に喜んだ。私はこの状態がずっと保ち続けられるよう、手を握りしめて祈っていた。

 夫は余程楽しかったのか、帰宅後もハーブ園での出来事を熱く語った。おまけに私の知らぬ間に買っていたラベンダーの種一袋を見せすぐまくようにと言った。その日の様子に不安を感じながらも冗談を言い、笑い合った。

 病気はほどなく再発。夫は三つの宝をのこし、慌ただしく不帰の旅に出た。今思えば、この世の花ではない花を見ていたのだろうか。あの時の種は一株だけ育ち、それから毎年、挿し芽をして増やした。今は庭一面、夫の命が形を変え、優しく風に揺れている。生ある限り、咲かせ続けたいと思う。

 宮軒瑛子(大阪府枚方市、主婦・61歳)

(2001年7月1日付け,読売新聞「ティータイム」欄所収)

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<追記>

妹の宮軒瑛子が1988年から2003年の間に、読売新聞、読売ガーディニング誌などの投稿しました「花作り」の苦労話などの記事12点を下に掲げます。

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