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岡部利良教授を送ることば



 かつて哲学者プラントやアリストテレスが、概念の真の認識に到達する方法として弁証法を唱え、対立する見解の対話を通して真理へ近ずくことを主張したが、岡部教授の会計学に関する諸論説は、正にかかる意味での弁証法的論理に基ずくものであったように思われる。周知のように、岡部教授は通説の会計・会計理論を批判する立場を一貫してとられ、その立場からの会計学の構築を主張されてきた。そして多くの会計学者と積極的に論争を展開し、その論争の中で自説を自ら検証する立場をとられてきた。この岡部教授の立場は最近になっても衰えることなく続けられている。そしてこの立場は、学問・研究の分野だけでなく岡部教授の大学の内外での諸活動の中でも一貫していた。昭和44年に岡部教授が龍谷大学に赴任されてからも、自説をまけず、安易な妥協をしないという岡部教授の議論展開の前に当惑した人も多かったと想像する。

 しかし、 こうした岡部教授の真実を追求する真剣な態度と、そのための非妥協的な議論展開は、昭和41年から47年に至る学術会議会員としての活動や、京都府地方労働委員会委員としての活動など多くの社会的分野で岡部教授が果たされた重要な役割の基礎にあったといえる。

 高齢になられてからの2度の大手術にもかかわらず、その後もお元気で教壇に立たれたのもこうした岡部教授の強靭な意志によるものであると思う。

 その岡部教授がこの3月でもって龍谷大学を去られることになった。龍谷大学在職17年、われわれは岡部教授からこうした学問への真摯な態度をはじめ,多くのことを教えられた。4月以降あの論争的発言をきけなくなることに一抹の寂しさを禁じえないが、岡部教授が今後も健康に留意されて研究に励まれると共に末長く龍谷大学の発展を見守って頂くことをお願いし、送別の辞とするものである。

昭和61年3月

龍谷大学経営学部長

林 昭

(1985年4月刊行、龍谷大学「経済経営論集」Vol.No4所収)

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