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純粋持株会社解禁の早期実現を望む


 低成長経済への移行、金融自由化の進展というわが国経済の新しい潮流の中で、企業のリストラや金融の異業態への相互参入・再編を進めるうえで障害となっている独占禁止法第9条を改正し、株式の保有を主たる事業とする所謂『純粋持株会社』の設立を求める声が経団連を中心に産業界で高まっている。

 そこで、純粋持株会社を禁止する独禁法第9条制定の経緯、今日存続することの弊害、欧米の前例を明らかにして、純粋持株会社の早期実現を訴えたい。

独占禁止法の制定と変遷

 戦後、1947年に制定された独禁法は米国法をモデルとしたが、GHQの意向もあってカルテルの全面禁止や過度集中をもたらす合併の禁止だけでなく、米国法にはない持株会社の全面禁止や会社相互の株式保有の原則禁止という厳しい内容の法律となった。

 ところが、会社相互の株式保有は財閥解体後の受け皿として、また、外資導入による合弁会社設立のために必要となり、早くも2年後の1949年には緩和された。この結果、金融機関の株式保有制限(5%、但し1953~77年10%)やその後の1977年改正で新設された大企業の株式保有制限(純資産の額まで)等の制約はあるものの、事業兼営持株会社となることは基本的に自由となり、同時に企業間相互の株式持合いが急速に進んだ。欧米諸国には例をみない純粋持株全社設立の全面禁止のみがそのまま残され、現在に至っているのが、むしろ異例と思われる。

現行制度の弊害

 企業間の株式持合いは、バブル崩壊後の今日、多くの弊害を露呈しているが、欧米諸国では殆どない株式持合いという慣行自体、幾多の問題を内包している。

 まず、第1に相互に実質的には出資していないにも拘らず、配当を受取り、議決権を行使するので、資本の空洞化、企業集団の閉鎖性を生み、更には一般株主権を侵害する事態を招いている。

 第2に持合いは企業防衛目的など投資収益以外の間接的利益に基づき行われるため、利潤動機に基づく純投資中心で形成されるべき株価に歪みを生じさせ、PERの異常高を招くなど資本市場に悪影響をもたらしている。

 第3に企業のリストラの障害になるばかりでなく、金融自由化の流れにも逆行している。先の銀行・証券の相互参入に当たっても、大蔵省に設けられた二つの審議会委員の大勢は親金融機関の影響力を防ぐ最も望ましい方式として持株会社方式を支持したものの、独禁法第9条がネックとなり、フアイア・ウォールの点でも問題含みの事業子会社方式で決着したのは好例である。

欧米諸国の教訓

 米国では1900年の反トラスト法の成立により、それまでのトラスト方式での不透明な企業統合から、ディスクロージャーの徹底した純粋持株会社方式に移行し、その後これが産業のさまざまな分野で活用されている。
 また、銀行には州際業務や他業務兼営に規制があるため、金融機関は純粋持株会社の下に銀行や関連事業を持つ銀行持株会社の形態をとり、金融自由化に機動的に対応している。

 欧州でも純粋持株会社の歴史は古く、統合EUでは国境を越えた企業再編の手段として純粋持株会社が多用されている。 もっとも、金融分野での利用は比較的新しく、バークレイズ銀行など英銀が純粋持株会社を設立したのは、ビッグ・バン前年の1985年である。同行グループの場合、従来のバークレイズ銀行が新設の純粋持株会社バークレイズPLCに組織変更され、同持株会社の下に銀行、証券など事業会社が並列的に並ぶようになった。

純粋持株会社の有用性

 純粋持株会社の設立が、その弊害の有無を論ずることなく、無条件に全面禁止されているのは、如何にも納得性に乏しい。メリットがあれば、積極的に活用し、弊害が明らかな場合には、それを排除する仕組みを作るのが本筋であろう。

 純粋持株会社のメリットとしては、第1に経営の総合力強化の観点から、グループ経営の効率化、合理化を図るうえで有効である。例えば、合併の場合、給与・待遇などの統一といった煩雑な作業を要するが、純粋持株会社であれば、傘下のグループ各社は各々の企業風土を残しつつ、統合の実を挙げることができる。 
 また、業務の多角化で管理や資金調達といった機能を純粋持株会社本社に残し、事業部門は分社化して、各々独自の特色発揮に専念することができよう。

 第2に純粋持株会社の下で兄弟会社となることによって、親子会社間では発生しかねない利益相反が無くなる。事業兼営持株会社の場合には、自らの主たる事業を優先し、子会社の事業に対して制約を加えたり、子会社が親会社に甘えてなかなか自立しなかったりする弊害もある。
 しかし、純粋持株会社の下で同列に並んだ企業はライバル同士として商品開発などの面で競い合うことになろう。

 独禁法第9条改正に反対する政府の壁は厚いが、リストラを進め、自由競争原理に立脚して金融制度改革の趣旨を徹底させるためにも、原点に立ち戻っての改革論議が強く望まれる。

 (明光証券株式会社 代表取締役会長 岡部陽二)

(1995年1月発行「明光レポート」76号所収)

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