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普通社債市場の抜本改革を急げ


未発達のわが国普通社債市場

 戦後のわが国金融システムが間接金融中心に形成されて来たことを背景に、普通社債市場は発行・流通市場とも未発達なまま推移し、今なお金融資本市場において重要な役割は果たしていない。

 まず、発行市場をみると、直近5年(89~93年度)平均で国内普通社債の発行は公募・私募合計で3兆円強、利付金融債13兆円強を合算しても16兆円強にすぎず、国債41兆円の5分の2にとどまっている。これに対して、米国では、国内普通社債(金融機関発行分を含む)は同約125兆円(公募・私募社債、MTN、資産担保債の合計)で長期国債64兆円の2倍に達している。

 次に、流通市場をみると、わが国普通社債売買高の全公社債売買高に占めるシェアは93年度0.3%、利付金融債を含めても2.3%にとどまっている。 また、売買回転率は年0.3回程度で、米国の2回強を大幅に下回っており、わが国の普通社債には流動性が全く欠如している。

 一方、企業金融面からみると、わが国企業の金融負債残高約650兆円のうち借入金のシェアは近年若干低下しているものの、93年度末で86%と依然圧倒的なシェアを占め、社債(CBを含む)のシェアはわずか8%にとどまっている。この点、米国企業の借入金が金融負債残高約440兆円の24%であるのに対し、社債が32%を占めているのと様相を異にする。

学ぶべき点が多い米国社債市場

 米国の社債市場では、発行時の条件設定・流通市場の価格形成共に発行体の信用度に基づく格付けを反映した利回り格差が定着している。最上級のAAA格とBBB格の社債の利回り格差は常に伸縮しているものの、最近では、1.7%程度はある。 わが国の常時0.3%固定という小幅の格差とは雲泥の差があり、米国市場ではリスク・プレミアムがレーテイングを介して適切に価格に反映されている。

 更に顕著な違いは、社債の種類の多様さである。償還期限5年までの短期ノートから50年の超長期債まで企業の資金需要に応じて自由に発行されている。金利も、ゼロ・クーポン債、変動利付債、各種インデックス連動債など多種多様である。特に、発行体が総発行枠を予めSECに登録すれば、社債を時々の資金需要に応じて随時発行、かつ発行条件・形態も市場実勢に応じて変更できるミディアム・ターム・ノート(MTN)の発行は83年来急増し、93年発行高は4100億ドルで、普通社債の4300億ドルとほぼ肩を並べた。また、80年代初には殆ど発行されていなかった資産担保債は89年以降、普通社債を上回る規模にまで急拡大している。

今後の課題

 わが国社債市場を活性化すべく、最近になって社債発行限度の撤廃、適債基準の緩和、受託会社制度の改善、引受手数料の引下げなどが相次いで実施されている。さらに本年春には、適債基準の撤廃や資産担保証券に対する規制緩和を含む抜本的見直しが打ち出される見込みである。
 しかし、その歩みはあまりにも遅く、企業や投資家のニーズに適切に応えるまでには至っていない。この際、重要なポイントは金融自由化や規制緩和の究極の目的はそれによって市場規模を拡大させ、利用者の利便向上を実現するという市場参加者共通の目的意識であろう。

 そこで、社債を企業にとって安定的な資産調達手段にするだけでなく、投資家にとって真に魅力ある商品に育てていくには、市場原理に基づいた効率性の高い制度を構築することが肝要であり、特に次の4点が重要と考える。

①適債基準の全面撤廃と格付けの定着化
 適債基準自体、海外に例をみないわが国独特のものであり、もはや全面撤廃すべきである。信頼性の高い格付け機関がタイムリーに行う格付けに基づく発行条件の格差によって需給が自動調節されるのが、本来の社債市場の姿である。

②資産担保証券の積極導入
 リース債権やクレジット債権、さらには不動産も幅広く証券化を進め、資産担保証券の多様化を図ることが社債市場の裾野を広げ、活性化に資する。それには、先ず有価証券の範囲を早急に資産担保証券全般にまで拡大し、レーテイングの対象に加えることが急務であろう。

③発行コストの低減
 社債発行コストのうち、引受手数料は数年前までの7年債で1.6%程度から最近では 0.35%程度と、ユーロ市場と遜色ない水準にまで低下している。そこで、残された問題はユーロ市場に比べて3倍近く高い発行費用である。国内での発行コスト高を避けるため、国内企業がユーロ市場での起債を優先するなどというのは、金融空洞化の典型的な姿であろう。

④決済・保管制度の改善
 社債取引の決済を取り決めた現行社債等登録制度は素々権利保全を主目的とし、銘柄毎に登録機関が異なるため、名義移転の手続きは繁雑で、遅延が常態化している。社債の円滑な流通を実現するためには、この際、登録制度に代えて米国のDTCやユーロ・クリアのように多様な証券を一括集中保管し、名義移転等を口座振替で行う業界共同の決済方式を早急に導入すべきであろう。

 (明光証券株式会社 代表取締役会長 岡部陽二)

 (1995年3月発行「明光レポート」第78号所収)

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