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㈱メディカル・プリンシプル代表取締役社長中村敬彦氏とのMonthlyIHEP有識者インタビュー「より良い医療を実現するための『民間医局』の取組み」

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話し手:㈱メディカル・プリンシプル社 
代表取締役社長 
中村 敬彦 氏

聞き手:医療経済研究機構 
専務理事 
岡部 陽二

 今回は医師の人材紹介業界最大手と目されている㈱メディカル・プリンシプル社の中村敬彦社長に、「民間医局」を指向した同社のビジネス・モデル構築のご苦労についてお伺いし、併せて医師不足や偏在の解消策についてのご意見を拝聴しました。

 同社は、札幌から福岡まで全国主要都市に支社を開設、従業員140名で年間の紹介手数料収入20億円、経常利益2.5億円を計上、急速に業容を拡大中です。全国の病院勤務医から頼りにされる存在として、医師の効率的配置や研修医の育成支援にも寄与されています。

 中村社長は1964年早稲田大学政経学部を卒業後、日本長期信用銀行へ入行、1993年第一証券常務取締役、1997年に㈱第一キャピタル代表取締役社長に就任されました。

 ㈱メディカル・プリンシプル社は1997年1月設立後、間もなく業績不振に陥り、1999年に中村氏が同社取締役に就任して再建を託され、2000年からは社長として経営基盤の確立に尽力されてきたものです。

〇㈱メディカル・プリンシプル社の経営と「民間医局」の発想について

岡部:「民間医局」機能の事業化という発想はどこから出てきたのでしょうか。起業の動機について、お話しください。

中村:私どもは、従来の「大学医局」とは対極に位置する「民間医局」が必要だとの発想のもとに事業を始めました。また、同業者の方々には、失礼な言い方になりお叱りを受けるかも知れませんが、これまでの人材紹介業者のやり方は、いわば「出会い系サイト」づくりです。

岡部:「出会い系」と言いますと。

中村:「給与はいくらで、こうした勤務条件で仕事をしてくださる方を探しています」という求人企業と新しい職場を探している求職者をマッチングさせて、それでおしまいなのですね。ところが、医療の世界で、腕に自信がある質のよい医師は、そういう単純な条件でマッチングに応じることは、まずあり得ない話です。

 もちろん、「出会い」自体はきっかけとして重要ですが、新しい職場を求めている医師は、求人をしてきた病院に、その病院はどのような医療を指向しているのか、どういう方とチームを組んで医療を展開したいと考えているのかなどといったことを、自分なりにお考えになっています。

 新しい職場に移っていく優れた医師の場合には、そうしたことを理解するプロセスが必須であり、私どもはそのようなプロセスを大事にします。こうした方法論で10年間ずっとやってきました。そういうことをしている人材紹介会社は、ほとんどないでしょう。

岡部:外資系の人材紹介会社には、いわゆる「ヘッドハンター」と大企業のCEOやCFOを一本釣りで注文に合わせて探す「サーチャー」がありますが、御社のモデルはこのサーチャーに当たりますね。

中村:そうですね。サーチャーとは考え方が微妙に違いますが、手作りという点は共通しています。私どもの戦略では、優れた医師をいかにして私どもの世界に囲い込むかという点に特色があり、その場限りの斡旋業務とは一線を画しているつもりです。

 私どもは医師の人材ネットワークを作り、それを長期にわたって大事に育てています。当然、医師の先生方は、今すぐに仕事を変えたいという方ばかりではありません。たとえば、医局の上司である教授が3年後に退官されるとすると、その次にはどういう教授が来るのかは不透明です。自分の将来設計に合いそうな上司が来る可能性と、来ない可能性を勤務医の先生方は測っておられるのです。そういう状況で、もしかしたら、3年後には転職するかも知れないという方が、私どもに事前に登録していただく仕組みを作っているのです。

 そういう意味で、すぐには転職を希望されない医師も含めて、私どもには人材のネットワークがあるのです。

岡部:既存の医師紹介が、ややもすると一匹狼的な医師に働く場を提供するという印象であったものを根底から覆して、地道に働いておられる普通の医師のキャリア形成に長期的な視点で取り組んでおられるわけですね。

中村:はい。そのネットワークの中の医師の皆さんにこんな情報があります、こういう情報もありますということをお伝えし、その情報にご興味ある方が手を挙げられたら、その方と具体的な話をさせていただきます。また、たとえば、自分はこの分野の専門医を採ってくれるような病院で、給与はこのぐらいのところで、地域は東京都内でなど、という条件が出てきたときに、私どもはそれにお応えできるような病院を探すわけです。医師側のご希望に合いそうな病院を三つから五つくらい選びまして、ご提示するようにしています。

岡部:なるほど。大変な手間を掛けられるのですね。

中村:そこで、ようやく医師のご興味のある病院がセレクトされましたら、その病院にお引き合わせします。お互いの希望条件が100%マッチすることは、むしろ少なく、たとえば月給150万円というご希望があっても、病院側ではそこまでは出せないというケースでは、当社が中に入って医師の先生にはどのぐらいまで譲歩していただけるのか、病院側にも何らかの工夫ができないものかという交渉の橋渡しや調整をします。

〇㈱メディカル・プリンシプル社のビジネス・モデル

岡部:御社の業務が手作りのプロの仕事であることはよく理解できました。大学病院の医局には、そこまで医師の意向を尊重した紹介は期待できませんから、「民間医局」の主要な顧客は優秀な医師を求めるレベルの高い病院ということになりますね。

中村:ご案内の通り、どこでも医師不足ですから、私どもにとっては、よい医師の先生のご登録があれば、絶対によい仕事ができます。

岡部:そうすると、まず開拓するのは、病院ではなく、医師がターゲットになるわけですね。

中村:そうです。病院ではなく、医師が大事です。ドクターの確保が肝心です。まず、よい医師に私どもに関心を持っていただいて、良質な母集団があれば、どこの病院でも関心を示してくれます。

岡部:では、病院を探す必要はないわけですね。でも、手数料は病院から貰うわけですね。

中村:そうです。費用は病院からいただきます。医師からは一銭もいただきません。法律的にもそういう仕組みになっています。

岡部:病院は、全国に9,000しかないですから、フォローするのは難しくないわけですね。医師は25~26万人ですから、大変ですね。

 医師に限定した人材紹介業の数や業界シェアといったものは判らないのでしょうか。

中村:広く捉えると同業者は、すくなくとも30社以上はあると思いますが、同業の協会もなく、シェアなども掴めません。

岡部:でも、御社がトップと言われていますね。医師紹介専業の従業員を140名も抱えて全国展開しておられる専業の企業は、ほかに見当たりませんから。

中村:多分、断トツだとは思いますが、それを証明する統計は何もないので、世評ということでしょうか。

岡部:人材プールを整えたとしても、転職の希望がコンスタントに出てくることはないでしょうから、安定したビジネス・モデルを作るのは難しいでしょうね。

中村:おっしゃる通り、紹介事業というのは、安定的に必ずある確率で仕事が成り立つことは、まずほとんどあり得ません。本当に偶然にいろいろな条件がうまく重なったときに初めて成功します。そのような偶然の積み重ねで成り立っているのです。ですから、ルーティンの仕事で土台をしっかりと作っておかないと安定的な経営基盤は確立できません。

 その安定的基盤として、私どもは、非常勤のお仕事の紹介をしています。今は、医師不足ですから、本来は常勤で埋めないといけないけれども、常勤の先生がいらっしゃらない。その穴をどうやって埋めるかというと、アルバイトの先生が埋めているわけです。もちろん、大学の医局からも送っていますが、私どももアルバイトのご紹介をしているのです。非常勤のご紹介の仕事もルーティンのデイリーワークとなっています。

 要するに、患者さんが困ることがないよう医療現場の隙間を埋めていく仕事です。そして、そういうかたちで、病院との日常的な関係ができます。

岡部:常勤と非常勤とでは、収益面ではどちらが大きいのでしょうか。

中村:そうですね。売上ベースで見ると、ちょうど半々です。

岡部:半々ということは、医療の世界でも、非正規が増えていると考えてよいのでしょうか。

中村:現象的には似ていますが、そのニーズがどちら側にあるかという背景には違いがあります。ただ、私どもとしては、非常勤のお世話をすることによって、医師の先生方との日常的な接触もでき、病院にも常時接触できるメリットがあります。非常に安定的な収益基盤にもなっています。実はそこが、先ほど申し上げた医師をネットワーク化する非常に大きなチャンスになっているのです。非常勤のニーズは、どの医師もお持ちです。とくに大学病院は薄給ですから、研究日にはどこかでアルバイトをしなければなりません。よい先生ほど非常勤のお仕事にはマッチするのです。

岡部:それはそうでしょうね。

中村:よい医師とのご縁が日常的な非常勤先の紹介でできますので、よい医師がそこでプールできます。そうすると、仮に3年後にその医師が転職されたいというときに、私どもがお世話するというような、サイクルを作れるのです。常勤の医師は、平均的には3年から5年に1回ぐらい、仕事場を変わります。医師が3年か5年のサイクルで動くときに、われわれが登場できる仕組みを作るためには、日常的に毎日お付き合いできる非常勤の紹介も重要な業務です。

岡部:紹介手数料の基準は、それぞれどうなっているのでしょうか。常勤であれば、たとえば給与の3カ月分といったフィー・スケジュールが決まっているのでしょうか。

中村:私どもは、常勤・非常勤ともに想定賃金の20%をいただいています。アルバイトも一緒です。たとえば、1日だけご紹介すると、だいたい日給10万円ぐらいですから、2万円ぐらいが私どもの収益になります。常勤の場合には、年間給与が1,700万円とすれば、それの20%をいただきます。

岡部:年間給与の20%であれば、3ヵ月分より少ないわけですね。

中村:少ないです。多分、先ほどおっしゃったサーチャーの業界で通用している料率は、安くても想定賃金の30%くらいではないでしょうか。

岡部:では、フィー・スケジュールとしては、非常に競争力があるわけですね。

中村:いいえ、医療の世界ではそうとも言えません。私どもは、20%のフィーをお願いしていますが、医師の人材紹介専門の他社さんでは5%とか10%でご商売をされてきたのです。私どもが紹介を始めた10年前には、もうすでにそういう紹介会社がたくさんあって、それが市場価格となっていたのです。

岡部:それでは、なかなか事業として成り立ち難いですね。

中村:それにもかかわらず、成り立っているのは、最初に申し上げたように「出会い系サイト」だからです。一回限りの商売で終わりという話なら成り立つのでしょう。

岡部:そういう業者は淘汰されて減っていくのではないでしょうか。

中村:やっていけるとしても、それでは、医療界に貢献はできません。そういう状況にあったので、精一杯頑張って20%の価格体系を浸透させるのに、ものすごく時間が掛りました。同業の皆さんが、5%や10%が業界の常識と思っているときに、私どもは20%と申し上げたわけですから。

岡部:確かに、非常勤の場合は、単なる出会い系と割り切れば、20%というのは高いような気もしますね。

中村:でも、非常勤のほうが手間は掛かりますから、非常勤のほうが利益率はたぶん低いと思います。そういう意味では、決して不当に高いとは思っていません。

岡部:それはそうですね。医師に対して、ライフプラン・サービスだとか、ナレッジ・サービスだとか、いろいろなサービスを提供しておられますが、そういう無料のサービスには、相当お金が掛かっていますね。「ドクターズマガジン」を毎月発行される費用も大きいですね。

中村:そうです。これは全部持ち出しです。こういうことは、あまりオープンにしにくいのですが、病院からいただいた20%の原資で、毎月の雑誌も出し、医師に対する福利厚生のサービスも提供し、あるいは、保険やベビーシッターの斡旋といったことまで手掛けています。

 こういったサービス提供で、医師の登録を増やすことができますから、さきほど申し上げたプールが大きくなるのであれば、それでよいと割り切っています。「ドクターズマガジン」には、年間1億円近いお金を使っていますが、この雑誌のお蔭で、多くの先生に私どもの会社を信用していただけるのです。

 私どもは財閥系の会社でもなく、どこの馬の骨か分かりませんが、「ドクターズマガジン」に登場いただいているご高名な先生方と付き合っている会社だから信用できるな」という安心感や信頼感を医師の皆様に持っていただけることで、よい先生のご登録が増えているのです。

岡部:手数料の収入が年間20億円で、雑誌だけで1億円の出費は大きいですね。

 でも、「ドクターズマガジン」に連載されている「ドクターの肖像」は読み物として迫力がありますね。8月号(表紙下掲)に出ているカリフォルニア大学と新潟大学兼務の中田力教授の医療改革論は読み応えがありました。

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中村
:ご評価、ありがとうございます。この雑誌は毎月5万部出しておりますから、医師への影響力は相当あるものと自負しております。

岡部:そうですか。それに、140人の社員を食べさせていかれるのは、大変なことですね。最終利益は、どのくらい出しておられるのでしょうか。

中村:今期は、たぶん、最低でも2億5千万円くらいの利益が出せる予定です。

 毎月、1億円強の経費が掛り、その6割ぐらいが人件費で、4割がIT絡みの市場に対して告知するための投資費用や雑誌の費用などです。

岡部:これだけの高収益会社であれば、上場されてもよろしいのではないでしょうか?

中村:そろそろ、そういうことも視野に入れたいと思ってはいますが、いまのところ、上場することのメリットは何もありません。社員の採用にも苦労はしておりません。

岡部:確かに、上場のメリットはないですね。手元資金も豊富で、新規の資金も要らないわけですから。

中村:下手に上場しますと、逆に、偏差値の高い学校の卒業生に来られて、ひ弱な集団になってしまう懸念を持っております。

岡部:それが日本の悪いところですね。

中村:しかも、市場からあれこれ言われるようになりますと、今のように自由な経営も出来なくなるおそれがあります。たとえば、株主から「ドクターズマガジン」に1億円も使うのは無駄だから、これを利益に回せと言われたときに、なかなか説明のし方が難しいですね。そういう意味で、自由度を失うのは避けたいと思っています。

岡部:なるほど、御社の企業理念はよく分かります。でも、理念とは逆に、たとえば社会性に欠けるような医師が応募してくることもあり得ますね。そういう場合には、どうされるわけですか。

中村:そういう方は、医師でなくても、一般社会でも、どんな一流企業でも、必ずおられます。学歴は立派だけれど、たとえば精神的に不安定な方とか、ちょっと性格が偏っておられる方です。私どもは、そういう医師にも日本の医療の中で一定の役割を果たしていただきたいと思っていますので、病院には「こういう面で、ちょっと問題が起きる可能性があります」とはっきりと申し上げて、たとえば、一定期間アルバイトでトライアルをしてくださいといった対応をしています。医師にも病院を見ていただくし、病院側からもその先生を見ていただいて、お互いに納得してもらえれば、そこで契約していただくというふうに、お互いの行き違いがないように努力しています。

 私どもはどんな医師でも無定見に「よい先生ですから」というかたちで、推薦はしません。医師だけが完璧な人間であるということはあり得ませんので。

岡部:営業マンは、140人のうち半分ぐらいでしょうか。

中村:いいえ。たぶん、140人のうち、90人ぐらいが営業マンです。営業マンは医師担当と病院担当に分けています。医師の希望を把握するチームから具体的な条件が見えてきたら、その段階でマッチング会議に出します。そこで、今度は、病院側のチームが、その医師の希望に合いそうなところを必死になって探すわけです。日常的にそういうやり取りしてれば、「ここがありますよ」と、すぐに適当な病院が出てきます。

岡部:一人の営業マンが両方には当たらないわけですね。

中村:最初のうちは、一人でやっていましたが、これだけの業容になりますと、データベースもちゃんと作って検索できるようにはしてありますが、やはり、担当は専門化して、両者の生々しい微妙な条件のやりとりは、会議でやり合ったほうがよいので、今の体制に落ち着きました。

岡部:一人で双方代理をするよりも、複数で議論を尽くしたほうが、事後のトラブルが少なくなるでしょうね。

中村:そうです。営業マンの好き嫌いも出たりしますから、客観化するためには、やはり、それぞれの立場を分けるほうが理想的です。

〇医師以外の病院管理者・事務長の紹介、研修担当職の支援について

岡部:臨床医だけではなく、有能な病院経営者の斡旋の需要が増えているのではないかと思いますが、経営者や病院管理者の紹介は考えておられないのでしょうか。今後、事業を拡大されるなら、もちろん看護師とかコメディカルとかも考えられると思いますが、最重要は病院経営者ではないかと思います。

中村:やはり病院のトップは医師でなければと思いますが、これだけ病院経営が難しい時代になったら、トップを補佐する事務長の役割が強化されないとダメではないでしょうか。しかし、現実には大多数の事務長は、病院管理者からの指示だけを忠実に履行すればいい、という限られた領域だけを守るところにおかれてしまいがちです。強力な事務長を育成して病院管理業務のラインを強化することが喫緊の課題と思っています。そこは民間人が大いに関われる仕事でしょう。不幸にして有能な民間人が、不況になって失業したりしている今日ですから、医療に興味を持って、医療の勉強をされたうえで病院に入っていくという流れを作れたらと考えています。

岡部:数は少ないけど、熊本済生会病院の正木義博さんのようにメーカーから転身された優秀な事務長もおられますね。

中村:そうです。でも、あの方は、希有な存在です。

岡部:それと、事務長以上に重要なのは、このあいだ亡くなられた武弘道先生のような医師としても経験豊富な病院管理者ですね。病院の経営は、一般企業から入ってきた方でもやれないことはありませんが、やはり、医療現場で人事管理を経験して来られた武先生のような医師が最適と考えています。

 医師をうまく使う能力は、自らも臨床を経験された優秀な医師のほうが勝っています。ですから、病院管理者の人材紹介は、まさに医師の延長ではないかと思うのですが。

中村:おっしゃる通りです。経営と臨床は二人三脚ですから、できれば、経営のトップは医師であるべきだと思っています。そのトップの方をサポートする、たとえば経営分析をする、病床稼働率が90%台を常にキープするような管理手法を開発する、といった有能な助言者がいれば文句なしです。このような管理業務を院長が全部やるのは、無理です。

岡部:大病院では、医師の病院管理者が臨床から完全に離れて管理業務だけに専念すれば、結構成果は上がるものと思いますが。

中村:実は私どもも、10年来の旧知の仲である武先生には顧問を引受けていただいたので、先生の「タケイズム」と言われていた経営哲学には興味を持っていました。

岡部:確かに、カリスマ的で、ほかの人には真似ができないオーラがありましたね。

中村:しかし、組織としてうまく回るような仕組みを作る人材という話になると、武先生のイメージとはちょっと違うのではないかと思っています。

岡部:そうなると、やはり、米国のように、医師をMBAコースに入れて再教育して経営者にするというのがベストではないでしょうか。医療経営のノウハウを持った人材斡旋ができればよいのですが、そういう人材は希少ですから。まず、再教育の支援を御社で手掛けられては如何でしょうか。

中村:それは名案ですね。徐々にレベルアップするかたちで、人材育成をして、医療界に送り出せるような方策を考えていきます。かなり先の夢になると思いますが、ぜひやっていきたいと思っています。

 話は変わりますが、研修制度が導入された結果、病院で何が起きたかというと、研修医を教える人がいない、という悩みです。立場上は研修担当がいるのですが、教え方を知らない人が教えているわけです。皆さん、右往左往されているといった感じでした。

岡部:どうも、そのようですね。わが国の大学病院は研究が中心で、臨床と教育は従と言う考えで運営されてきたからですね。

中村:そうです。日本の医学界では、教えることがメインテーマではなかったわけです。まず研究論文を書くということが第一で、ついでに臨床をやり、教育は場外というのが、これまでの実態でした。米国では、見事に三つの機能をそれぞれの先生が役割分担して遂行しています。

 この面では、日本は明らかに立ち後れているので、私どもが「臨床研修教育をする方のための教育プログラム」を立ち上げて支援しています。東京都の都立病院群とか、済生会病院などの研修指導者の方を対象に"ハウ・トゥ・ティーチング"のプログラムを1年間にわたってお手伝いをしています。

 私どもがこのような仕事をこなせるのは、日本中の優れた医師の先生方との人脈を持っているからです。私どもは学閥とは関係がない一方で、病院は全部学閥で固められています。そうすると、よい先生を見つけようと思っても、自分の大学の中でしか探せません。ところが、実際には、別の大学にその分野のよい医師がいらっしゃるというケースも多いのです。私どもは、学閥を超えたお付き合いをしていますから、日本中で一番よい医師を見つけることができるのです。

岡部:その人脈で臨床研修のための教育プログラムを作っておられるのは、素晴らしいことですね。

 ただ、これは医学に限った問題ではありませんが、教育の最大の問題は、研究は客観的に評価され、それが待遇や報酬にも結び付きますが、教育職の実績評価は全くなされていないことだと思うのですが。

中村:確かに、臨床の評価はようやく緒につき始めましたが、教育の評価はゼロです。また、教育にはお金がつきません。

岡部:教育は評価も投資もゼロの社会ですね。私も、銀行を辞めてから大学教授を7年間やっていて、本当に驚いたのは、私が他の教員を評価することもなければ、私が評価されることもない緊張感のない真空状態で仕事をしている状況にあったことです。評価のない世界で、教員が真面目に学生の教育に取り組むのか、本当に疑問に思いました。ですから、そもそも「教員」であるにもかかわらず、研究ばかり一生懸命やって、教育はおざなりになっているのです。医学の場合は、それがもっとも極端かも知れませんね。

中村:おっしゃる通りです。私が厚生労働省に異議を申し立てたいのは、臨床研修制度がスタートして、事前に何を研修しなさいということは明示されたのですが、出口でそれをきちんとクリアしたかどうかは、誰もチェックしない仕組みになっていることです。評価抜きで、預かった病院の先生が判を押せば、それを国家的に認めてしまうという制度になっているのです。

岡部:評価をしないで、研修の質がどうのこうのと言うのはおかしいですね。当初の目的に沿った履修がきちんとできたかどうかの検証チェックは最低限必要です。

 確かに、教育とか医療とかいう分野の評価が難しい事情はよく分かりますが、お互いに仲間が見ているわけですから、ピアレビューをやらせればすぐ分かると思うのですが。

中村:おっしゃる通りです。そうすれば、すぐ分かります。少なくとも初期の研修は、そんな難しい話ではなく、ポイントは明確に見えているので、評価は誰でもできるはずなのです。ところが、これが研修プログラムには入っていません。

 そこで、それに絡んだNPO法人も立ち上げ、私どもが黒子で支える形で、臨床研修での医学教育を充実するためのセミナーを開いたりしています。これは、私どもの利益にはまったく寄与しませんが、そういうことにご関心がある先生方は、私どもが一番期待している医師でもありますので、シナジーがあると思っています。

岡部:大学病院の医局については、弊害ばかり指摘されています。都心の大学病院には、そもそも医局は要らないかもしれませんが、地方では地域医療体制の要として、重要な機能を果たしているのではありませんか。

中村:はい。それはおっしゃる通りです。ただ、医局の崩壊を新しい臨床研修制度の所為にするのは、間違っています。今回の研修制度見直しの議論でも、岩手や山形、金沢大学の一部の先生方から研修制度が自分たちの医局を疲弊させた最大の元凶だというふうに指摘されていますが、これは問題の本質を避けられている気がします。地方大学の医学部を出た医師たちも、母校に魅力があればそこに残るはずですから。

岡部:魅力がない原因を究明して、問題点を見直すことが大事ですね。

中村:反省をしないで、研修生が来ないのは制度が悪いと考えるのは、やはり、大学が胡座をかいていて、今までの「博士号をあげるので、お前ら、来い」という考え方が根底にあるからです。

 このような歪んだ構造がまだ残っている大学医局に対して、医師の先生方の意向に沿ったかたちで、臨床医への道をお手伝いする仕組みを作りたいという発想で立ち上げたのが、私どもの「民間医局」です。

 したがって、決して、大学と対立するとかしないとかの話ではなく、「大学は研究中心で機能してください。ただ、そうでない人生を歩みたいと望む医師もいらっしゃるわけですから、そういう方に対しては、民間のほうで応援します」という姿勢です。

 私どもは、大学の機能を補完する姿勢で業務をしてきましたので、お蔭さまで、今は大学とも仲良くやっています。大学病院の医局が機能できないところを、私どもが埋めていくという補完機能を果たしているのです。そういう意味では、私が当初期待したかたちに、近づいているものと考えています。

岡部:それは素晴らしいことですね。

〇医師不足への対応策

岡部:医師総数不足への当面の対策としては、病院の機能集約化や医師の職務を看護師などに分散する方策などが提言されていますが、この点についてはどう考えられますか。偏在は別として、医師の総数は本当に不足しているとお考えでしょうか。

中村:これは、私どもでも正直言って、よく分かりません。

岡部:『日経メディカル』が行なったかなり大規模なアンケートの結果では、医師はまだ過剰だと思っている医師が半分ぐらいいらっしゃるのですね。

中村:いや、少なくとも現場の病院勤務医はそうは思っていないと思います。あのアンケートでは、開業医が過剰と回答し、勤務医は不足だと言っているのです。

 ただ、医師不足の問題は絶対数として不足している面と、医療システム上のエラーで起きている不足とがありますから、単純に医学部の定員を増やせば解決する問題ではないと思います。

岡部:そうでしょうね。

中村:システム・エラーの一つは、例えば時給1万円の医師が、時給1,000円の人で済む仕事をたくさんやっているという問題です。

 秘書のような仕事を医師の先生が自分でやったり、看護師に任せればよい仕事まで医師がやったりしている。米国では、医師をサポートするスタッフが大勢いて、機能分担をしながら一つの医療行為をこなしています。日本ではシステム自体が医師だけで何でもやるという作り方になっています。医師の守備範囲はその医師でないとやれない仕事だけに特化したシステムを構築しないと、医師不足は解消されません。

 ところが、大学病院はそれがなかなかできない組織になっています。たとえば、内科の先生が、MRIの手配をするときに、そこにいる秘書に「ちょっと頼むよ」と言えば、秘書が放射線科に電話をすれば済むところが、内科の医師が直々に電話をして放射線科の医師に頼まないと、MRIの時間すらちゃんと取れないというような状況があるらしいのです。

岡部:日米の医療体制の比較で、一病床当りの医師数が日本は米国の1/3に過ぎないとか、看護師数も少ないといった問題がよく引き合いに出されますが、それ以上に格差が大きいのは、メディカル・セクレタリーをはじめとする医療スタッフの数で、日本の病院には米国の1/6しかいません。

中村:はい、おっしゃる通りです。

岡部:米国では病院の専門医は、自分でカルテも書かないですね、全部オーラルの口述筆記で、秘書がタイプしてきた文章をチェックするだけです。

中村:そうですね。医師はサインだけしてお仕舞いですからね。

岡部:医師がしている仕事のなかで、医療とまったく関係のない雑用がいかに多いかをまず明らかにすべきです。御社がやっておられる医師のライフサポート・サービスを拡充すれば、非常に役に立つのではないかと思うのですが。

 医師が多忙すぎて、立ち去り型サボタージュが発生するほど疲弊し、絶対数も不足していると言われていますが、報酬を勘案した労働生産性という点では、高給医師ほど生産性の低い職種はないのではなかろうかと思っています。

中村:それはまさに時給1,000円の仕事を高給の医師がやっていることに尽きるわけです。もう一つの非効率は、国公立病院の定員制です。この医師を新たに雇えば年間収入が2億円増える、というようなことが見えているのにもかかわらず、定員制の枠があるからできない、といった話がどこにでもあります。そういうお役所支配をどうやって壊すかです。

岡部:定員制といった規制は廃止するしかないですね。独法化や病院管理者制度などは、その入り口ではないでしょうか。優れた民間病医院では、結構実績を挙げているのですから。

 システム次第ということはよく分かりますが、現状のシステムを前提にしても、なおかつ、医師の需給は逼迫していないという見方もあるようですが、人材紹介の現場感覚では如何でしょうか。現に、勤務医の給料は30歳、40歳でも1,000万円台というのが多いようですね。

中村:私どもから見る限りは、平均すると1,700万円がよいところではないかと思います。

岡部:外科医の手術件数をみても、米国の半分以下ですから、3,000万円も出してはペイしないということでしょうね。そうすると、やはり病医院機能の集約化が必要ですね。

中村:確かに、手術の件数が米国の医師に比べると少ないことは、医師の間でもよく言われています。日本の医師は、手術をもっとやりたくてもできないという問題が大きいのです。

 医療システム全体の効率の悪さが、病院の低収益にも繋がっていますが、日本の医師の価値観が外国と比べて非常に特殊な点にも原因があろうかと思います。というのは、医療の質と医師の給料が逆比例しているケースが多々あるのです。

 たとえば、虎の門病院など高度医療を提供する有名な病院の給料は、たぶん部長クラスで年俸1,000万円台くらいではないかと思います。ところが、この医師がちょっと遠くの病院へ行けば、2,000万円を超す給料がもらえます。このように、医師の給料は、医療の質と反比例している場合が多いというのが現実です。おそらく、その医師は、薄給でも虎の門病院でよい医療ができることに誇りを持っておられるのです。

岡部:質がよいほど給料が安いケースも多いというわけですね。国立大学の先生は、みな薄給ですね。私も、わが国の医療費の水準が国際的に見て低いのは、収入を度外視した医師の高いモラルに支えられてきたからだと思います。

中村:そういう高いモラルの赤ひげ的な価値観が根強く残っていて、それが国民にも支持されているのです。医療界は自由に給与水準を選べるという世界とは別の価値観で動いていると感じます。

 米国で仕事をしてこられた医師の先生方は、米国人医師の高いスキルは評価できるが、人間としての好き嫌いといった点では、嫌いなやつばかりだということを、ドクターズマガジン8月号にご登場願った中田力先生もおっしゃっています。

 米国の医師の腕前はすごいけれど、「俺は嫌いだ」と皆が言うのは、やはりモラルが違うということです。その裏には、米国ではすべてのことがお金に換算して、解決がつくけれども、日本の場合には、お金以外の要素のほうが大事にされる事実があるからだと中田先生も言っておられました。

岡部:昨年、カナダの病院視察で驚いたのですが、カナダでは手術の待機期間がものすごく長いのです。ところが、医師は、週40時間と決められた時間しか働かないというのですね。外国人医師をいくら入れてもまだ足りない状況下でも超過勤務はしないといったことが、どうして起こるのかと思ったのですが、それが現実です。

〇診療科間・地域間の医師偏在、勤務医から開業医への移動問題

岡部:診療科間や地域間の医師偏在は、総数の問題とは別に対応すべき課題です。地域偏在については地元大学卒の地元就業へのインセンティブ付与などが考えられていますが、医師の自由意思を尊重するかぎり過疎地問題などは簡単には解決しません。偏在是正には、どのような方策が必要とお考えでしょうか。

中村:この問題は、昨今いろいろなかたちで議論されていますが、診療科別や地域別の偏在解消には、やはり専門医の枠を作ることが第一歩かと思います。

岡部:米国のように、枠を学会で決める方式ですね。

中村:はい。たとえば、茨城県では、人口1,000万人当りで確率的に心臓疾患は何人起きると統計的に出てきます。それに見合うだけの専門医をそこに配置するという、地域別定員を設けるのです。そうすると、今のように東京に集中するということは、十分排除できると思います。

岡部:それを学会に任せるわけですか。

中村:学会に任せるにはいろいろ問題がありますので、理想は第三者機関を設立し、各学会からどういう条件をクリアしたら専門医として認めるかなどの提案をしてもらう方式です。米国ではこの方式でやっています。

岡部:公的な統制には馴染みませんね。

中村:ただ、日本では米国のようなどこからも干渉されない独立の第三者機関の設立は難しく、結局非常に歪んだものになるおそれがあります。次に問題となるのは、学会の資質です。専門医制度をどうするかをキチッと決め、市場のサイズに合った必要な定員数を決めて、その枠内で競争し合うという考え方自体が未熟です。

岡部:診療報酬の引き上げによる誘導で偏在を是正しようというのは、あまり効果的ではないでしょうね。

中村:やらないよりはましだとは思いますが、医師の給与は診療報酬とは連動していません。公的病院の場合は、年功主体で給与テーブルが決まっていますから、優秀な医師だけ給与を引上げるわけにはいきません。

岡部:なるほど、そうですね。地域偏在の是正は、どうすればよいのでしょうか。どうしても、日本は一極集中になってしまいますね。

中村:地域格差対策の名案はありませんが、先ほど申し上げたように、一つは、専門医制度の中で地域別に定員化すること、もう一つは、僻地の医療などは地域のネットワークの中でローテーション方式を採り入れて解決していくことが必要ではないでしょうか。

岡部:それから、病院と診療所の偏在というか、勤務医の開業医指向は依然として相当多いのでしょうか。厚生労働省の「医療施設動態調査」では、平成16年以降医科診療所の純増は1,000軒を下廻っており、平成20年には83軒に減っています。この数字から、医師会は「もはや、勤務医の開業医志向は存在しない」と結論付けていますが、実態はどうなのでしょうか。

中村:全体の数字でいえば、開業が増えている一方で、閉院も同じくらい増えています。平成19年では、開設が5,239軒、廃止が4,522軒、平成20年では開設が4,764軒、廃止4,681軒で、この開設水準は平成元年当時の3,000軒台と比べ、5割以上増えています。

 ところが、開設と廃止には世代間の違いがあります。閉院しているのは、もうリタイアした高齢者の医師が後継者難で閉めるというケースが多く、一方、新規に増えている開業医は、本当は市中病院で頑張ってもらわなければならない一番働き盛りの30歳、40歳代の医師が開業に向かっている結果です。

 診療所総数の推移は別にして、個別に見ると、明らかに、一番働いて欲しい勤務医が開業に向かっているという傾向は顕著です。

岡部:毎年、新しい医師は8,000人ほどしか誕生しないのに、5,000軒もの新しい診療所ができるというのは、問題ですね。新設に加えて、医師がいなくなった既存の医療法人を買収して開業するケースや一つの診療所に複数の医師が関わるケースも多いので、新規開業医の実数はもっと多いものと推測されます。開設と廃止が同数でも、内容がぜんぜん違うというご指摘は的を射ています。これでは、若手の勤務医は減る一方ですね。

中村:ええ。開業医は勤務時間が短いうえ、30歳台、40歳前後の医師では、開業すると収入が3倍くらいになります。対策としては、病院の診療報酬を大幅に引上げるしかありません。

岡部:よく分かりました。まだまだお伺いしたいこともありますが、本日はこの辺で。ありがとうございました。

(2009年10月13日、医療経済研究機構発行「医療経済研究機構レター(Monthly IHEP)」No.180、p9~21所収)

 

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