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マクドナルド・デービス・アソシエイツ社最高経営責任者Dick Mcdonald氏とのIHEP巻頭インタビュー ~医療分野における広告とマ-ケティング


話し手: Mcdonald Davis Associates
最高経営責任者 Dick Mcdonald氏
聞き手: 医療経済研究機構 専務理事 岡部陽二

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 今回のインタビューは、当機構会員で元「日経ヘルスケア」編集長の盛宮喜氏のご紹介により、来日中のディック・マクドナルド氏との会談が実現したものである。同氏はウィスコンシン大学修士課程終了後、この道一筋に専念してきた米国での医療コンサルタントの草分け的な存在で、医療マーケティングの開拓者との評価も得ている、この分野での第一人者である。医療分野における広告とマーケティングの重要性、社会的な意義などにつき、米国の先進事例をお伺いすることができた。

〇 医療マーケティング・コンサルタント創業の経緯

岡部 マクドナルド氏は1972年に米国初の医療コンサルタント会社を設立されたと伺っています。医療サービス業においてもマーケティング活動が重要な役割を果たすべきであるという先見性のある判断は、どういう契機でお持ちになったのでしょうか?

マクドナルド 私は45年前に広告専門会社に入社して、この道に入りました。その後、テキサス州ダラスで独立して会社を設立しましたが、結局失敗してしまいました。生まれ故郷のウィスコンシン州ミルウォーキーに戻ってきて、そこで卸売の会社でしばらく働いた後、1963年に再びマーケティングのコンサルタント会社「マクドナルド・デービス・アソシエイツ社」を共同出資で設立しました。
 米国でも、1960年代には病院を宣伝するという考えはまったく存在していませんでした。ところが、1972年のある日のこと、ある病院経営者から電話があって、新しいアイディアがあるから会いたいというのです。200床ほどのその地域病院では医療活動を拡大するために広告を活用することを検討しており、新しいことにチャレンジしてくれる勇敢なコンサルタントを探しているという話でした。私はその経営者と会い、その病院のためにコンサルティングや広告を始めることになりました。病院のマーケティングを手掛けた最初のきっかけは、全くの偶然だったといえます。

岡部 それまで、医療分野でのご経験は特になかったわけですか?

マクドナルド:そうですね。唯一の関わりと言えるのは、父が医師、母が看護師だったということくらいでしょうか。結果的に、あの時にたまたま私に電話をかけてきた病院経営者が、アメリカで初めて病院の広告を実行に移した第一号となりました。
 その最初のクライアントとの仕事が成功した後、2番目のクライアントが電話をかけてきました。その後、結果が良かったためもあって、当社のビジネスはどんどん成長していきました。単なる広告だけでなく、経営企画面でのコンサルティングや市場調査、マーケティング手法の開発といった様々なサービス提供を通じて、当社は病院が成長し繁栄するのをお手伝いしてきました。評判が評判を呼んで、当社が特化した医療コンサルティング・ビジネスは広がっていきました。
 現在、社員総数は約350名、全米12の都市にオフィスがあります。顧客数は約240社、マルチ・チエーン病院のテネット・ヘルスケアを初めとする病院、医療保険組織、医師グループなど41州をカバーしています。また、当社は米国PR協会、米国マーケティング協会、米国広告協会、米国市場調査協会などに所属しています。

〇 医療における広告とマーケティング活動解禁の経緯

岡部 米国の医療には人種の多様性や貧富の格差など、医療コンサルティングの面でも難しい問題があるのではないかと思いますが。

マクドナルド 病院の広告コンサルタントを始めて4~5年たった頃に、当社のクライアントであった病院が、アフリカ系アメリカ人に多い鎌状赤血球貧血の検査を行うセンターを初めて設立し、それが大成功しました。この病気はアフリカ系アメリカ人の10人に1人にみられる遺伝性の疾患で、検査を受けて鎌状赤血球の遺伝が分かれば治療可能ですが、そのままにしておくと、死亡するケースもよくあります。このセンターは初年度だけで、1万人以上の黒人を検査することができました。当社がマーケティングを担当したこの検査センターは、この病気の解明と検査の普及に多大の貢献をしたということで、当時のニクソン大統領から賞をもらいました。また、大統領から受賞したということで、当社の評判はさらに高まりました。

岡部 そういったマーケティング活動が病気の予防などに役立つわけですね?ところで、その当時は米国でも病院が広告をすることは禁止されていたのでは?

マクドナルド 病院が広告をしてはいけないという法律があったわけではありませんが、事実上禁止されていました。倫理的に広告宣伝はすべきではないという考え方が医師の側にあったわけです。でも、最初に当社のクライアントになった病院の経営者が非常に勇敢で、病院の広告とマーケティング活動の社会的意義についての確たるビジョンを持っていました。とにかく、政府がだめだという命令を出すまでやってみようと。

岡部 米国でも、かつては医療、教育、法務、宗教という4つの聖域分野での広告宣伝活動は禁止されており、1977年の連邦政府最高裁判決によって解禁されたものと承知しておりますが?

マクドナルド 広告宣伝を禁止する法律の明文規定は存在しなかったものの、これらの分野で働く専門職の人たち自身に、広告やPRなどをするのは不適切であるという考えが根強かったのです。政府が何らかの規制をしたわけでなく、職業上の伝統的な信念のようなものでした。例えば弁護士などの法務の分野では、政府ではなく、米国法曹協会が協会の全メンバーに対し、職業上の倫理として、広告をすることを禁止していました。
 ところが、1977年に、ある法律事務所が始めた広告活動を止めさせようとアリゾナ州の法律専門家が起こした訴訟に対し、米国最高裁が原告の訴えを退け、広告をはじめとする一切のマーケティング活動を弁護士事務所に認めるべしとの判決を出しました。それが医療、教育、宗教の分野にも波及したわけです。
 医療分野では、米国法曹協会と並んで、米国医師会が医療の広告宣伝を阻止しようとする強力な組織でした。米国病院協会も、医師との自然な関係から、医師会側と同じ広告禁止に賛同する立場をとっていました。
 そこで、私は医療における広告宣伝とマーケティング活動の解禁を求める内容の文書をこの裁判の過程で最高裁判所へ提出しました。私が書いたものの一部は判決文の中にとり入れられており、判決を出すにあたっての背景的理由の説明に役立ったものと思います。最高裁の判決が1977年に出て以来、広告やマーケティングを始める病院が増えてまいりました。

岡部 そこで、病院の大々的な広告活動が始まったわけですね。広告には、どのような媒体が使われましたか。

マクドナルド テレビ、ラジオ、新聞、看板、雑誌など、メディアと言えるものは何でも使いました。
 あるクライアントはラジオで一分間のメッセージ広告を流しました。ただし、病院の名前を連呼するような内容のものではなく、その病院で実際に働いている医師、看護師、栄養士が出てきて、教育的な内容のメッセージを伝えるのです。例えば、チーズなどは良質の食べ物ではあるものの、食べ過ぎるとコレステロールなどが溜まって体に良くないというような内容ですね。正しい食べ方などを啓蒙し、最後に手短に「このメッセージはセント・メアリー・ホスピタル提供でした」というように病院の名前を言います。単に病院を宣伝するのではなく、健康に関するメッセージ性の高さを重視した方が効果的ですね。

〇 医療における広告の意義

岡部 広告の解禁後25年たちましたが、解禁は病院や医師の実際の医療サービス活動にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。

マクドナルド 解禁後、多数の病院や広告代理店が当社の後に続き、今では、アメリカの病院で広告をしていないところはありません。広告を通じて病院間に競争の原理をとり入れることによって、医療サービスの質が大きく改善したということは間違いないと思います。また、消費者に対する教育的な効果も大きく、予防の重要性や治療の選択肢など医療全般に関する一般の人々の知識が高まったことも事実です。法律分野での広告に関しても、同様の効果が出ていると言えます。
 この25年間には様々な失敗もありましたが、今でもありがちな間違いのひとつが、自分の病院と医師のことばかり宣伝する内容の広告です。「ベストのドクター」とか「最も経験豊富な病院」とか「最高の技術を持っている」というような、「自分たち」を声高に宣伝する広告ですね。私はこれを"インサイド・アウト・スピーチ"、つまり内側から外への呼びかけと名づけています。これは、いかに自分たちが優れていて素晴らしいかを外へ向かって伝えることが目的です。
 これに対し、私は逆に"アウトサイド・イン・スピーチ"という全く新しい考え方をとり入れました。これは、外側にいる消費者のニーズや希望を調査し、それを反映した広告やマーケティングを行うというアプローチです。たとえば、病院や医師を選ぶ場合に、どのような治療を受けたいかを誰がどのように決めているかを調査したところ、働き盛りの女性が彼女の夫、両親、子供などの家族の治療について8割以上の決定を行っているという結果が出ました。
 そこで、当社は既婚、未婚、離婚経験者を含めてあらゆる年齢層の女性を調査し、医療サービスの選択に関する決定をする際に、女性がどのようなことを知りたがっているかを調べ、それを反映した広告やマーケティングを行いました。それにより、広告に盛り込むメッセージの性質が、以前と比べまったく違うものになってきたわけです。

岡部 アメリカではどの大病院もが「自分がベスト」「自分がナンバーワン」と自称していますよね。消費者はどのように判断すれば、本当のベストを選択できるのでしょうか。

マクドナルド 広告からだけでは判断できないし、最初は誰もが同じようなことを声高に言っていたため、消費者は広告を信じないようになってきました。
 今では、私たち自身も成長し、経験も豊富になりました。長年の経験の中から、知識、情報、教育、カウンセリングなどを通じて、医師と患者の間に可能な限りベストの関係を築くことが最も大切なことであり、病院というのは、医師が看護師と協力してその実現に取り組んでいる場所に過ぎないということを、私たち自身が学習しました。
 つまり、病院は工場のようなものだという考え方です。私はよく自動車工場に例えて話すのですが、病院が工場で、医師は車を売るカーディーラーです。ディーラーが故障した車を工場へ持っていくように、医師はオフィスを構えていて、手術が必要な患者が来ると、病院へ連れて行き、車と同じように、戻ってきたら念入りにアフターケアとメンテナンスを行うというような感じですね。
 ですから私たちは、病気を予防し、健康でいることの大切さを一般の人に教育するとともに、それでも病気になったり、胸に痛みがあるなど早期の症状に気付いたりしたら、ぜひその症状の治療に適したこの病院のあの医師のところへいらっしゃいというようなアプローチをとります。

岡部 病院が広告をすることは、消費者が適切な病院や医師を選ぶのに大きく役立つわけですね。

マクドナルド 私たちは病院や医師や薬剤師など様々な医療職の人たちを、洗練されたプロフェッショナルとしての「私たちのヒーロー」のような存在にしたいと思っています。医師や看護師たちは、私たちが元気に生活できるよう手助けしてくれる存在であり、健康についての話をしてくれる医療消費者の実践的なパートナーとして見て欲しいと思っています。そのようなプロからのメッセージを盛り込む方が、人の心にアピールするにははるかに効果的であり、ことに女性はそういうプロフェッショナルな情報を知りたがっているのです。
 たとえば、妊娠した女性は産科の具体的な内容について知りたがりますよね。妊娠中に、母親になることについて少しでも多く学びたいと思うわけです。初めての出産の場合には、妊婦を対象としたクラスにはどんなものがあるかを知りたいと思うでしょう。夫と一緒に受けられるようなクラスがあるのかどうかとか。そして、出産後には小児科医についての情報が重要になります。
 また、赤ちゃんの育て方のような情報も、女性にとっては重要です。ですから、私たちは、そういった情報を豊富に盛り込んだクラスを産科病院に開設し、新聞などの媒体を通じて宣伝する方式で、非常に成功しています。

〇 広告宣伝活動における自己規制

岡部 広告にさまざまなメリットがあることがよく分かりました。でも、それと同時に、一方では虚偽の宣伝や誇大広告が米国でも問題になっているのではないかと思いますが、その点についての規制や取締りはどうなっているのでしょうか?

マクドナルド 連邦政府レベルでは、米国健康福祉省が取締りを行なっており、各州でも健康福祉局が独自に規制を行なっています。これらの政府機関が、不正確な情報や虚偽の宣伝に関する申し立てを受け、各ケースを調査して適切な措置をとります。
 ただ、医療提供者であれば誰でも、自らが守らなければならない規制を十分に認識しています。また、私たちのようなコンサルタント会社や広告代理店も、ライバルがやっている広告宣伝の内容に目を光らせており、問題があれば当局に苦情を申し立てます。このビジネスを始めて以来、私が苦情を申し立てたケースは一件だけで、ウィスコンシン州政府がただちに処理してくれました。
 虚偽の宣伝や誇大広告をすると、病院や医師のライセンスを失い、また資金援助を失うリスクがあるわけですから、乱用が問題になることはめったにありません。
 一方で、公的医療保険であるメディケアやメディメイドは、医療サービスの広告宣伝には患者教育や医療知識を一般に広める効果があると認めており、医療機関に対して、各医療機関が受ける診療報酬総額の2~4%に相当する額を宣伝費として支援しています。虚偽の宣伝や誇大広告をすれば、こういった面でも失うものが大きいと言えます。

 DTC(処方薬の消費者向け直接広告)の評価

岡部 米国のFDA(食品医薬品局)は、1997年にテレビ・ラジオによる医師処方薬のDTC(Direct to Consumer)広告を製薬会社に認め、当初は暫定措置でしたが、この2~3年でDTCは完全に定着しました。このDTC広告に費やされる広告費は年間数十億ドルに上り、この費用が医療費高騰の一つの要因にもなっていますが、製薬会社が行うこのような広告活動については、どのように見ておられますか。

マクドナルド DTCが医療費の増大に繋がっている点は否定できませんが、FDAが行なった過去3回の調査でも、DTC広告は医療消費者には大変好評です。この結果、DTC広告は消費者の疾患と治療法についての認識を高め、医師と患者の対話を促進する効果があるとして、ディメリットよりもメリットの方が大きいとの評価がなされています。
 DTC広告の影響で消費者が処方薬についての知識を医師と共有するようになって、医師も治療がやり易くなったと肯定的に受け止めています。DTCによって賢くなった患者からの要請で、専門の医師でも必ずしも十分な知識を持っていない新薬がすぐに広まることは、日進月歩の新薬開発の時代にはむしろ望ましいことと私も賛成です。
 もっとも、DTC広告については、病院などの一般広告とは異なり、事前にFTC(公正取引委員会)のチェックを受けることが義務づけられています。これは、証券取引やエネルギー関連の公益性の高い広告などと同様に、行き過ぎた内容の広告が消費者に誤解を与えないように配慮した消費者保護の措置です。

〇 わが国における医療マーケティング

岡部 わが国ではDTCは時期尚早と受け止められていますが、医療機関の広告は大幅に認められるようになってまいりました。また、医療機関のマーケティング活動の重要性に対する認識も格段に高まってきております。これらの面で、マーケティング先進国の米国から学ぶべきところが多いものと考えられますが。

マクドナルド これから、日本でも医療分野でのマーケティング活動が何年か前にアメリカが向かった方向へ前進する場合、かつて私たちがそうであったように、まったく経験のない人たちが手探りの状態で消費者向けのさまざまなメッセージを作っていくことになるのではないかと思います。日本がこの方向へ行くのであれば、私は皆さんに、アメリカから医療コンサルタントを呼んでセミナーやワークショップを行うことを経験者としてお勧めします。
 今回で私の訪日も4回目となり、いくつかの医療コンサルタント団体などで講演をしてきましたが、これからも医療分野における広告とマーケティングに関する効果的で建設的なノウハウなどについてお話をし、全般的な知識を高めるお手伝いができればと思っています。
 また、私のところだけではなく、ライバル各社も様々なノウハウを持っており、日本の皆さんにご紹介することもできます。経験の少ないマーケティング会社や広告代理店を対象にワークショップやセミナーを開催し、私たちがこれまでに培ってきた経験をシェアできる機会があれば光栄です。

(取材/編集;樗沢 啓示)

(2003年11月医療経済研究機構発行「Monthly IHEP(医療経済研究機構レター)」No.115 p2~9 所収)

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