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ニュージーランドの印象

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1 善意に満ち溢れた国

 ニュージーランド官民挙げてのわれわれ調査団に対するもてなし振りに痛く感激したのは私一人だけではなかろう。オークランドに着いてからウェリントンを離れるまで外務省のシンクレアー氏が付き切り、オークランドの港湾局ではタグボート2隻をくり出しての湾内回遊サービス、ウェリントンでは国会開会中にも拘らずファルーン大蔵副大臣が2時間に亘って我々の質問に応答、両市でのレセプションには同国を代表する一流企業・銀行の会長・社長級を揃えてくれたことなど、数え挙げればキリがない。

 また、町の佇まいは一言で云えば「イギリスよりもイギリス的」という観であったが、そこに住んでいる人々や表情にはなんとなく微笑みというか余裕があり、本国のイギリス人と比べると大変真面目でかつ人が好いという印象を持った。

 これには理由があり,機中で貰ったニュージーランド航空のパンフレットによれば、16世紀の中頃にベストセラーとしてヨーロッパで話題になった、イギリスのヒューマニストであり著名な政治家であった卜一マス・モアの書いた「ユートピア」という本と大いに関係があるということである。彼の思想に真面目に熱っぼく共鳴した正義感の強い人たちが、「トーマス・モアの唱える理想郷ユートピアをニュージーランドに創ろう」と考え、この島に渡来したからであり、今日この国を訪れる人々が、他の国とどこか違った土地であるという印象を持つのは,この故であるという訳である。

2.豊かさを創った国

 ニュージーランドは鉱産資源には乏しいが、農牧資源・林産資源に恵まれ、人口311万人に対し、羊7,000万頭,牛1,000万頭を有し,国土全体がおおむね牧草地と森林で覆われている。したがって一人当りGNPでみるとわが国とあまり変らないが,一人当りのエネルギー消費量が我が国の8倍という数字に如実に集約されている如く,生活実感としては大変に豊かな国である。

 しかしながら、この豊かさの由来するところは、産油国のように天から自然に与えられたものでほなく、彼らの営々とした生産努力の成果として築き上げられたものであることが貴重であろう。

 というのも、この国の土地そのものは概ね火山灰質であって、動植物の生育には不適であるため、この島には牛馬のような四肢の動物は本来は存在せず、したがってキウイーのような生活力に乏しい鳥類が生き残っている由である。羊や牛はすべてギリスから移入して増殖されたものであり、森林にしても永年に亘る植林事業の結果、良質の木材が採れるようになり、紀元2,000年には現在の年間生産量8-10百万立方米を2倍以上に増やす計画である。ニュージーランドとしては、わが国に対し,食品加工、林産開発などの面での投資をことのほか希望しているのも故なしとしない。

3.夢多き国

 これまで順調に発展して来たこの国の経済も2度のオイル・ショックの打撃を受けて、一次産品依存の脆弱性を露呈、こゝ2~3年低迷を余儀なくされているものゝ、この不況から立直るための大プロジェクト数件が目下意欲的に進められている。

 この大プロジェクトの中心はマウイ及びカブニ(北島の西南部沖合)のガス田から採掘される天然ガスのエネルギー源としての利用に加えて、アンモニア、尿素、メタノール、エチレンなどの化学製品を生産する一連の計画である。中でも注目をひくのはメタノールを介して更に合成ガソリンを製造、輸入石油をこれで以って代替しようという総額10億弗を超える所謂"SYN-GAS"プロジェクトである。これが完成すれば、世界初の合成ガソリン製造プラントとなる正に"夢のプロジェクト"である。このプロジェクト・ファイナンスへのわれわれ邦銀の参加が現地で高く評価されているのは嬉しかった。

 こゝで心憎いのは,ニュージランドではこれらのプロジェクトを"THINK-BIG PROJECT"と称して、官民の総力を傾けて取り組んでいる点である。"THINK BIG"という発想にこそ、この国の夢多き未来を窺い知ることが出来た。 ((株)住友銀行 岡部陽ニ)

 (1982年財団法人日本生産性本部・近代化協会刊行「豪州・ニュージーランド産業経済調査団報告書」127~128頁所収)

 

 

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