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<投資教室>サブプライム問題の総決算

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 昨年6月から世界の金融市場を揺さぶり始め、年末にかけて一段と金融不安を掻きたてたサブプライム問題も、2007年度の決算で損失処理の過半は完了し、流動性危機も何とか乗り切った。世界全体でのサブプライム関連損失額は、FRBの発表では2,000億ドル(22兆円)程度とされているが、関連債券の空売りで大儲けをしたゴールドマン・サックスはこの二倍程度と推定している。

 この損失額の推定に当たっては、10月末現在での日本の金融庁調査が最も信用できる。これによると、日本の預金取扱金融機関合計で、サブプライム関連商品の保有額(簿価)は1.4兆円、9月中間期までの実現損失;1,410億円、評価損;1,350億円、損失計2,760億円、損失率;19.7%となっている。これに野村證券などの保有分を加えると、サブプライム総残高1.4兆ドルのほぼ1%を日本の金融機関が保有していたことになる。損失率の約20%はさらに上振れする懸念もあるものの、一応この20%で計算すると、世界全体の損失額は2,800億ドル(31兆円)となる。

 これまでに公表されている大手銀行や投資銀行の損失額合計はようやく10兆円規模に達したが、残り2/3強の損失の一部は個人投資家なども被っているものの、大部分は大手金融機関関連のファンドやSIVが簿外で保有している分の損失と推定される。

 シティーバンク・UBSをはじめ、モルガン・スタンレー、メリル・リンチ、ベア・スターズなどの大手投資銀行はこの巨額の損失で毀損した自己資本を増強すべく、サウジやアブダビ、中国、シンガポールなどの政府ファンドに資金協力を求め、流動性確保面では米欧の中央銀行5行が連携して100兆円近い緊急資金供給を行なった。これで、何とか越年できたが、この余波で二割方値下がりした先進諸国、ことにわが国の株式市場回復の目途は立っていない。消費減退に伴う米国の実体経済への悪影響も拡大している。

 サブプライム問題については、すでに多くの論評がなされているが、その複合要因のポイントを突いた分析は少ない。とくに、原因の大宗を米国の住宅価格の下落にありとするのは、疑問である。米国の住宅価格は2006年央までの6年間に平均して約二倍に上昇したが、同年6月をピークとして下降に転じ、昨年末までですでに6~7%下落、来年はさらに同程度の下落が予想されてはいるが、この程度の住宅価格下落が金融危機を招来したのは、金融の仕組み自体に問題があったと見るのが至当であろう。

 本稿では、Sub-primeの問題点を、①Scrutinize(審査・検証)の欠如、②Securitization(証券化)の誤謬とモラル・ハザード、③Structured Investment Vehicle(SIV、飛ばし専用の簿外ペーパー・カンパニー)の貪欲の三つの"S"に絞って総括したい。これを他山の石として、今後わが国でも進展が予想される資産担保証券を選別する眼を養っていただきたい。

1、Scrutinize(審査・検証)の欠如

 サブプライム・ローンがプライム・ローンと異なるのは、①借入人の返済能力を審査しない(担保のみ重視)、②頭金なしで、担保掛け目100%まで貸し出す(プライムでは80%まで)、③金利がプライムより年率3%ほど高い、ただし、当初の2~3年間は低利を適用する方式が一般的、といった点においてである。このように、返済能力の審査を行なわないローンが、そもそも貸金と言えるのか。担保を重視するのであれば、担保価値の減少に備えて低い掛け目を適用するのは当然である。

 このような悪徳サラ金まがいのサブプライム融資が、無秩序のまま放置されてきたのは問題であり、借入人保護の見地からも、業界ないしは行政による然るべき規制が不可欠である。

 サブプライム・ローンを担保とした証券に投資をするに当たっても、リスク確認という基本的な検証を行なうことなく、住宅価格が二倍に上昇した特異な期間の低い支払不能率に基づいた格付けを鵜呑みにした安易な投資判断の横行が厳しく糾弾されて当然である。

2、Securitization(証券化)の誤謬とモラル・ハザード

 サブプライム・ローンの過半は、CDO(Collateralized Debt Obligation)と呼ばれる資産担保証券に組み込まれていた。このCDOは,サブプライム・ローンを多数集めて証券化したABS(Asset Backed Security)に投資し、このABSを担保にして借入を行なうことにより10倍程度のレバリッジを利かせたもので、06年には5,030億ドル(58兆円)が発行された。

 CDOに投資をして高利回りを狙う投資ファンドは、このCDOを担保に借入を行なって、投資家から集めた資金を、さらに10倍くらいに膨らませて運用していたのである。

 このような証券化には、次のような問題点があった。「証券化自体には問題はなく、それを悪用した者が悪い」という主張は、その通りであるが、悪用を前提とした規制がないことには、投資家は安心して投資できない。

(1)サブプライム・ローンの支払不能率を5%程度とみて仕組まれたCDOに、AAAやAAの高信用格付けを与えた格付け会社は、昨年8月に支払不能が8%となった途端に一斉に格下げに走ったことが、サブプライム問題の発端となった。住宅ローンの支払不能はプライムでも3%程度はあるので、サブプライムの場合には最低でも20%程度の支払不能リスクをみる要があり、これは投資銀行と格付け会社の共謀偽装詐欺である。

(2)サブプライム・ローンの約款には、借入人に一方的に不利な略奪的な条件が多数盛り込まれているが、このローンを証券化して債権者が移転すれば、借入人は交渉相手がなくなり、不当な条件にも泣き寝入りするしかないといったモラル・ハザードが存在する。やはり、ローンの原債権者には少なくともローンの一部は期日まで保有する義務を負担させる規制が必要である。ローン・ブロカーの介在は、このモラル・ハザードをさらに増幅しているが、ローンである以上、債権者と債務者の直接相対取引に限定すべきである。

3、Structured Investment Vehicle(SIV、簿外ペーパー・カンパニー)の貪欲

 ヘッジ・ファンドに次ぐサブプライム関連のCDOへの大口投資家は、欧米大手銀行が簿外で設立したSIVであった。SIV全体で保有する証券化商品などの資産残高は、昨年9月末で3,400億ドル(37兆円)、シティーバンク一行のSIV7社で910億ドルも保有していた。

 SIVは親銀行が組成したり、購入したりしたCDOを裏付けとして高格付けの資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)を発行していたが、その担保CDOが格下げになったり、償還不能に陥ったりしたために、ABCPの買い手がつかず、資金繰りに窮したのが、短期金融市場全体の流動性危機を招いたのである。

 満期30年の超長期で高利回りのCDO保有資金を低利の期間1~3ヶ月物短期コマーシャルペーパーで調達すれば、大きな金利差益を稼ぐことができるが、これはリスクの大きな長短ミスマッチ取引である。このような高リスク取引を連結対象から免れるために簿外で処理してきたのは大問題である。日本がすでに採り入れている実質支配基準では、当然に連結対象となるSIVの非連結扱いを認めてきた欧米の会計準則にも問題があるが、大手銀行のモラルが問われるところである。

(2008年1月5日発行、日本個人投資家協会月報「きらめき」2008年1月号所収)

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