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キラウエア火山を往く

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 火山観察はヘリコプターからがベスト 

連休明けにハワイ・オアフ島での仲間内のゴルフ会に参加した機会に、単身でハワイ島まで足を延ばして、かねて念願のキラウエア火山見学を試みた。灼熱の熔岩流が海へ流れ込む光景を海上から眺める遊覧船ツアーが素晴らしいとの情報もあったが、昨年9月から海へは流れ込んでいないことが分かった。そこで、バス・ツアーに加え、上空から観るヘリコプターでの遊覧観光を予約した。

  ヘリコプター・ツアーを予約する段階で驚いたのは、JTBも近畿日本ツーリストも予約の取り次ぎをしてくれないことであった。ハワイに限らず、ヘリコプターや軽気球はリスクが高いので、お客がいくら希望しても予約の斡旋はしないという。まさに、エイジェント業務の放棄である。VELTRAというネット専門の旅行エイジェントが喜んで引き受けてくれ、不都合はなかったが、パソコンが使えないと旅行もできない時代を実感した。リスクが高いのなら旅行保険を掛けようと思って、東京海上と三井住友海上にネットで申し込むと、今度は70歳以上の老人からの保険申し込みはネットでは受付けない、代理店の店頭へ来いと言うつれない返事。歳をとると旅行も自由にできない。

  念のため現地で確かめてみると、ヘリコプター・ツアーは20年来無事故ながら、JTBなどが売り込んでいた遊覧船での熔岩流観光では、波が高く、転倒事故が頻発していたという話であった。筆者のこれまでの経験では、ヴィクトリアやイグアスの滝といった大自然の雄大さを堪能するには、ヘリコプターで近接して観るのがベストである。

ハワイ島のヘリコプター・ツアーは4社ほどが運航しており、日本人パイロットが案内してくれるパラダイス・ヘリコプター社のツアーを選んだ。機体は上下・四方が透けていて、まさに視界360度の広い6人乗り。ヘッド・セットを着けて、騒音もなく常時パイロットと会話ができて、きわめて快適であった。平均して地上100米のところを時速200キロで、ハワイ島をほぼ1周、火口付近では地上50メートル辺りまで降りて、ゆっくり動いてくれるので、熔岩流の動きまで結構はっきりと見える。

  キラウエア火山には、現在噴火している火口が2カ所ある。中央部に位するハレマウマウ火口は白い噴煙に覆われていて、熔岩流はほとんど見えない。さらに、有毒ガスを噴出しているため、白炎から5キロ内への近接が禁止されていた。

  もう一つのプーオーオー(PuuOo)火口は、ハレマウマウ火口から南に20キロほど離れたところにあり、海岸線に近い。空からの接近は自由で、ヘリコプターは上空で旋回してくれるので、真っ赤な熔岩流が数カ所の火口からだらだらと流れ出ている様が眩しいほどよく見える。

この火口の噴火は1983年に始まり、現在まで30年以上にわたり噴火を継続している。昨年秋までは熔岩流が海に流れ込んで海岸線を押し広げていたが、今は火口壁が崩落した影響で海岸線まで辿り着く前に渦巻き状の模様を造って固まっている。プーオーオー火口に限らず、ハワイ島では爆発的な噴火はなく、マグマを徐々に流出するタイプであるため、世界中の火山の中でもっとも近くから観察でき、かつ世界一安全な火山島と言われている。

 

キラウエア地球噴き上ぐ灼熱のヘリコプターの眼下に眩し  陽二

 


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 大型バンでハワイ島を一周
 


   翌日は、11人乗りのベンツでハワイ島を一周するツアーに参加した。まず、マウナロア火山のクレーターなどを見学した。マウナロアは「長い山」を意味し、体積は75百万立方キロで、地球上でもっとも体積の大きい活火山である。火山は70万年間にわたって噴火し続けており、有史以来でも30回を超える噴火が記録されている。1984年3月から4月にかけて起こった噴火は世界的に有名である。

  火口から噴き出たマグマが固まってできた熔岩は、高熱で燃え尽きた鉱物の灰の塊のようなものである。水を中心とする揮発性の物質が抜け出た後の気泡を内包しており、普通の岩石よりはかなり軽い。このため、熔岩が雨水を吸収してしまうので、ハワイ島には川がない。

ハワイ島の火山から噴き出る熔岩はマグマが高温で粘性が低く流動性が高いので、火山斜面の傾斜はきわめて緩く、熔岩流が火口から10キロ米以上流れることも多い。熔岩の成分は玄武岩質、色は真っ黒で、黒曜石の畑が一面に広がっている感じである。

  キラウエア火山は、地元の伝説で火の女神ペレが住むといわれる場所とされている。気性の荒いペレは、気まぐれに噴火を繰り返すが、地元の人は「ペレは住む家は奪うが、人は殺さない」と信じている。それは、キラウエア火山が噴き出す熔岩流の流れる速度は遅く、人の歩く速度とほぼ同じくらいなので、噴火を知ってから余裕を持って避難することができるからである。現に、1924年に火山礫を受けて一人のカメラマンが死亡した以後、噴火による死者は一人も出ていない。火山の女神ペレの荒い気性をなだめるために妹の神が踊ったのが、フラダンスの始まりという伝承もある。

  2~3年前に噴火した真っ黒で無味乾燥な溶岩台地にも灌木が生えている。中でも、鮮やかな大きな赤い花をつけ、レイにもよく使われるオヒアレフアという灌木は背も高い。雨水しかないのにどこから栄養分を摂ってこんなに大きく育つのか不思議である。

  キラウエア火山のハレマウマウ火口の見物は、ジャガー博物館という展示場に隣接した展望台からの遠望しかできない。ここを昼間と日没直後の二回訪れた。マグマから分離した毒性の強い揮発成分を含む水蒸気が数十米の高さまで濛々と噴き上がっている。噴煙を吐きだしている溶岩湖のサイズは少しずつ大きくなっているそうで、現在は直径約160米。昼間は白煙が見えるだけであるが、夜になって辺りが暗くなると、この煙が赤黄色に染まる。溶岩湖とそこから流れ出ている溶岩流を直接肉眼で見ることはできないものの、赤く染まった噴煙が暗黒の中に浮かび出た夢幻的な光景には迫力があった。

  夜には、天空の星を観察するためにマウナケア山の中腹、2,800米のところまで登った。マウナケアは、
ギネスの「海洋底の基部から測った山の高さ世界記録」によると、海抜10,203米で、世界で最も高い山と認知されている。

 

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世界遺産としての火山
 
 

ハワイ島の全面積の3%を占めているキラウエアとマウナロアの主要山地は1916年に国立公園に指定され、1987年にはユネスコの世界遺産(自然遺産)に登録されている。

  しかしながら、ハワイ島の現地では「世界遺産」という表示は一切なく、宣伝もしていない。ガイドの説明にも出て来ないので、訝しんで聞いて見ると、世界遺産の登録は連邦政府が勝手に行なったもので、ハワイでは州政府も島民も登録を歓迎していないという回答であった。世界遺産に指定されると、環境保全のために地域内の開発が規制されることに地元民は不満を抱いているからである。確かに、広大な公園内にレストランもコンビニもなく、水と弁当持参のドライブは不便ではある。

それにしても、わが国での激しい世界遺産指定競争騒ぎとは余りにもかけ離れている様に驚いた。

  ユネスコの世界遺産のうち、自然遺産として2013年末現在193が登録されている。そのうち、24が火山関連とされているが、リストを眺めると、イエローストーン(米)、ジャイアンツ・コーズウエイ(英)、済州島の熔岩洞窟(韓国)、ガラパゴス諸島(エクアドル)などその多くが死火山である。活火山は、ハワイ島の2火山とイタリアの2火山、それにロシアのカムチャッカ火山群の5個所だけである。

  昨年、世界遺産に登録された富士山は、古来山岳信仰の対象となり、葛飾北斎らの浮世絵の題材ともなった芸術の源泉としての価値が評価されて文化遺産として承認されたもので、自然遺産ではない。

  一方、富士山と同時に世界遺産に登録されたイタリア・シチリア島のエトナ山は活発な火山活動が評価されて自然遺産として認められたものである。エトナ山は、標高3,343米、直径約45キロ米、周囲約200キロ米あり、ヨーロッパで最大の一番高い活火山として知られている。1年に16回ほど噴火があり、世界で最も活動的な火山である。円錐形の外観は富士山よりもやや切り立っているが、富士山のように苦労をして徒歩で登らなくてもよい。乗用車で標高1,900米まで行き、そこからはジープかロープウェイで楽に頂上近くまで登れる。25年ほど前に訪れた時には、そこからさらに4輪駆動の特殊なジープで、直近の噴火でまだ熱を帯びている熔岩の上を走り、噴煙が燻っているクレーターを案内してくれるというサービス振りであった。

  エトナ山のあるシチリア島の北に浮かぶ
エオリエ諸島は、70万年以上前の海底火山の噴火によって誕生した7つの島からなり、最北端のストロンボリ島の火山は、なんと二千年以上前から絶え間なく噴火を続けている。数十分に1回噴火し、轟音と共に熔岩が噴き出される。シチリアに最も近い位置にあるヴォルカーノ島にはフォッサ火山がある。この島の火山噴火記録が紀元前5世紀から見られることから、この島の名前が英語のVolcanoの語源となっている。 

 

活火山とは

ハワイ諸島を形成する
8つの島はすべて火山の噴火で太平洋の真ん中に出現した火山島である。太平洋プレートが北西方向へ100万年間に51キロ米の速度で移動した結果、その下にあるマグマ溜まりのホット・スポットと活火山の位置は徐々に南東に移動した。したがって、ハワイ列島では北西にある島ほど古く、海水に浸食された期間も長いために小さい。ビッグ・アイランドとも称される最南端のハワイ島は最も若くて大きい。


  ハワイ島は5つの火山の集合体で、最北端の狭いコハラ山地だけが12万年前に噴火を止めた死火山で、他の4つは活火山である。最終噴火時点が古い順に、マウナケア(
約4,500年前に最終噴火)、フアラライ(1,801年に最終噴火)、マウナロア(2008年に最終噴火)、キラウエア(現在も噴火中)となる。

  さらにハワイ島の南東海中には、ロイヒ海山と言う海底火山が成長しつつあり、1966年以来、活発に噴火している。もう一つ、ハワイ島の北西側面に位置するマフコナ海山は、以前は地上の火山であったものが、今は海底に没している。厳密に言えば、この7つがハワイ島とその周辺の火山で、うち5つが活火山である。他のハワイ諸島はすべて死火山となっている。

  ところで、この活火山と死火山の区別はどのような基準で行なわれているのであろうか。以前には、今現在活動している、つまり噴火している火山は「活火山」、現在噴火していない火山は「休火山」あるいは「死火山」と呼ばれていた。高校で習った「地学」の教科書では、富士山のように1,707年に噴火した記録はあるものの、現在休んでいる火山は「休火山」に分類され、文書記録が残っている歴史時代に噴火記録がない火山は「死火山」とされていた。ただ、歴史時代で定義すると、文書記録が存在するのは西欧では2,000年以上、ハワイでは200年あまりと言った長短があり、不適切であった。

  火山の活動の寿命は長く、数百年程度の休止期間はほんのつかの間の眠りでしかないということから、今後噴火する可能性がある火山をすべて「活火山」と分類するのが妥当との考え方が1950年代から国際的に広まり、1960年代からは気象庁も噴火の記録のある火山をすべて活火山と呼ぶことに変更した。

  しかし、数千年にわたって活動を休止した後に活動を再開した事例もあり、近年の火山学の発展に伴い過去1万年間の噴火履歴で活火山を定義するのが適当である との認識が国際的にも一般的になりつつあることから、2003年には
概ね過去1万年以内に噴火した火山および現在活発な噴気活動のある火山」を活火山と定義し直された。これは、過去に噴出した熔岩中に存在する炭素などの元素の中で特定の同位体が放射壊変する現象を利用した放射年代測定法によって熔岩ができた年代(年齢)がほぼ正確に分かるようになったからである。

  この新しい定義で、旧来の「休火山」という区分は消滅し、最終の噴火時点が1万年内か否かを基準に活火山と死火山に二分された。日本の活火山数は現在110となっている。ただ、この中で、現在も噴火しているか、近く噴火の可能性があるランクAは浅間山、伊豆大島、桜島など13火山だけである。活火山の定義を1万年もの昔に遡るのは、可能性は僅かであっても再噴火のリスクを軽視すべきでないという防災上の見地からの厳しい基準設定であり、首肯できる。

  全世界に存在する活火山の数は、この定義でも海底火山で不分明なものも多く、資料によってばらばらながら、信憑性が高いスミソニアン・カタログによれば、約1,500となっている。日本の110はその約7%を占める。世界中の活火山の中で、毎日、現に噴火をしている火山の数は毎年40から60の間を変動、このうち日本は3~4程度を占めている。ただし、イタリアのストムボリ火山のように20世紀以上にわたって間断なく噴火し続けている例は稀である。

火山の成因と形状


噴火は地下深部で発生したマグマが地表に噴出する現象である。火口が開いてマグマへの圧力が減ると一斉に発泡して体積が増加し、火口からマグマが噴出する。

  マグマ溜まりの位置はよく分かっていないが、地下に溜まっているマグマが上部の岩盤が柔らかい個所やプレートが重なりあったりする裂け目に噴火口に至る火道と呼ばれるマグマの通り道ができるものと考えられている。
マグマの粘り気や組成成分の違いによって、火山の形状は、鐘状火山、成層火山、楯状火山の3つに分類できる。噴火口の位置や形も火山全体の形状に大きく影響する。

  鐘状火山はお椀を伏せたような丸っぽい形で、マグマの温度は800度C程度と低いが、火砕流の噴出は激しい。熔岩の色は白っぽい。雲仙普賢岳や昭和新山がその典型である。

  成層火山は富士山のようななだらかな円錐形で、マグマの温度は1,000C度程度。熔岩と火山灰が混ざって、山肌は灰色をしている。蝦夷富士と称される北海道の羊蹄山を始め、外国にも
ペルシャ富士(ダマバンド山)、タコマ富士(レーニア山、米ワシントン州)など、富士山に例えた円錐形の火山は多く、成層火山が全火山の過半を占めている。アルゼンチンとチリの国境に位置する世界でもっとも高い活火山のオホス・デル・サラード(標高;6,893米)も成層火山ある。

  楯状火山はなだらかな丘のような高原状の火山で、マグマの温度は1,200度Cと高いものの、熔岩の粘り気がなくサラサラしているので、噴火すると平らに広がる。真黒色で気泡が多く軽い。ハワイのマウナロア、マウナケアとキラウエアは典型的な楯状火山である。インドのデカン高原や伊豆大島の三原山も楯状火山であるが、類例は少ない。

 

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   マウナロアと富士山の形状はまさに対極的である。マウナロアの標高は海抜4,005米、富士山は3,776米とマウナロアの方がかなり高い。一方、マウナロアの底辺の直径は標高の10倍ほどあって、傾斜は緩やか、車で頂上まで行ける。体積は75百万立方キロと世界最大で、体積1.4百万立方キロの富士山の54倍も大きい。しかし、どう見ても、富士山の方が高いように思える。

  平素は何気なく見過ごしている山の顔貌や山肌の色合いも、じっくり眺めると成因によって、大きな違いがある。ハワイ島に来て、同じ火山でも、かくも形状を異にするのかと、自然の妙を満喫できた。

岡部 陽二, 元住友銀行専務取締役、元広島国際大学教授)


(2014年7月25日、日本工業倶楽部発行「会報」第249号、p29~37所収)

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