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<投資教室>原発コストの莫大な無駄を糾弾しよう

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本年2月11日付けの日本経済新聞1面トップに「原発稼働率9割に向上~自民党が基本法素案、10年で欧米並みに」と大きな見出しが踊っていた。自民党は「低酸素社会作り基本法(仮称)」の素案で、向こう10年間の温暖化ガス削減目標を明記し、その達成手段の大きな柱として「原子力発電所の稼働率を現在の6割から9割に引き上げる目標を掲げ、電力会社にその達成を求める」という基本方針を打出したというのがこの記事のポイントである。

 確かに、左下表にある通り、2006年度には米・独の原発稼働率はほぼ9割であったのに対し、日本は7割を割っている。さらに、一昨年には新潟県中越沖地震で東電・柏崎狩羽原発が全面休止したために、昨年度には東電の原発稼働率は4割に、全電力平均は6割に落ち込んでいる。

 この原発稼働率は現在稼働中と地震により休止中の計53基の9割方が出そろった1993年には76.6%であった。その後徐々に向上し、右下図のスタート時点とした1999年に81.7%とピークを付けた。その後は年々下降して2003年には60%を割り込み、地震による休止前の2007年には71.9%までやや改善したものである。過去のピーク時でも81.7%であった原発稼働率を米・独並みの9割に引上げるという一見非現実的な目標を、どのようにして達成しようというのであろうか。以下に、平常時の全電力平均での課題と東電・柏崎刈羽原発の復旧問題に分けて考察してみた。

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1、平常時の全電力平均原発稼働率

 原子力発電所には、安全確保のために、事故や異常の有無にかかわらず、定期的に原子炉の運転を休止させて点検することが法律により義務付けられている。これまで、この定期点検は13ヶ月毎と定められていたが、本年1月から5年間掛けて順次最長24ヶ月ごとに点検の間隔が延長されることなった。

 この間隔期間の延長は、4~5年に1回実施される国際エネルギー機関(IEA)が一昨年行なったレビューで、日本の安全検査を「必要以上に過剰な規制」と指摘されたことなどを受けて行われたものであるが、欧米での定期点検は通常36ヶ月程度に1回とされている。  

 定期点検の過去の実績では、通常3ヶ月程度の休止を必要としているので、13ヶ月ごとであれば、稼働率は81.3%であり、24ヶ月に延ばしても88.9%にしかならない。26ヶ月にすれば、ぎりぎり90%となるが、定期点検中のミスや報告の改ざんなどが過去に何回も起こっており、休止期間が延びることもあるので、稼働率90%以上を実現するには、やはり欧米並みの36ヶ月に延ばすことが不可欠となる。この点を自民党の上記基本法素案はどのように考えているのであろうか。

 安全第一は大前提ではあるが、そのための頻回検査がかえって非効率で安全性を損ねる検査となっている面も否めず、そもそも原発の運行は24時間常時6名での監視体制が敷かれているにもかかわらず、異常もないのに休止しての点検をしばしば行なう科学的根拠がどこにあるのか。また、一回の定期点検に3ヶ月も炉を休止させる必要があるのか。検査要員を倍増したり、融通し合ったりして、休止期間を1ヶ月程度に短縮できないのか。いずれも、判然としない。欧米との違いを電力会社に質問しても、外国のことは知らないとの返事しか返ってこなかった。

2、東電・柏崎刈羽原子力発電所の長期休止問題

 一昨年7月に発生した新潟県中越沖地震で原発7基を擁するわが国最大規模の東電・柏崎狩羽原発が全面休止した。その後、まず7号機の運転再開が優先されたが、再開へ向けての復旧作業と検査に17ヶ月の長時日を要し、本年2月13日に原子力安全保安院より、18日に原子力安全委員会より、再起動についての承認を得た。ところが、さらに新潟県知事の了解を得るのに手間取り、すでに2ヶ月以上を費やしているが、4月末に至るも試験運転開始日は決まっていない。5月の連休明けには再開される見込みと報ぜられているが、本格的な営業運転は7月以降となる。

 地震による被害は限定的で、原子炉本体には放射能漏れに到るような損傷はなく、昨年8月に来日したIAEAの日本政府あての報告書にも「地震の規模が設計段階で想定されてたいたよりはるかに大きかったにもかかわらず、被害は限定的で軽微。放射能漏れも微量で、各地点での量は通常の操業状態で許容される量よりはるかに低いと推定された」と書かれている。

 軽微で限定的な損傷にもかかわらず、運転再開に19ヶ月も要したのはなぜか。技術者不足を補うべく、他電力や政府機関に応援を頼んでいないのは、怠慢ではないか。国の機関が再開を承認してから、県知事の了解を得なければならない法的根拠はどこにあるのか。自治体は国と協力して、同時に安全性の確認をすれば済むのに、独自の審査委員会を設置し、県議会に諮る理由が分からない。3月19日に当協会の見学会で発電所を訪れた夜に宿泊した旅館の女将さんは「一刻も早い原発再開が地元民の総意である」と公言していた。知事が地元の意向に反して承認を渋っている理由は何か。これらの疑問点を東電に訊ねても、回答は釈然としない。

 東電のアニュアル・レポートによれば、この発電所の休止による2007年度1年間の損害額を6,156億円としており、全面休止中の損害額は優に1兆円を超えるものと推測される。一日当り17億円である。それにもかかわらず、全7基の全面再開にはなお2~3年を要するであろうという頼りのない説明があるのみで、社長からの全面再開目標日のコミットメントはどこにも見当たらない。

 電源別の発電コストは、1キロワット時当たり、水力は8~13円、火力は7~8円、原子力は5~6円に留まるとされているが、これはモデルケースによる試算値であって、原発稼働率80%を前提としている。原子力の場合、燃料費の比率は25%程度と低く、75%が設備費であるため、設備稼働率が下がれば、発電コストは幾何級数的に上昇する。このコスト増は、挙げて株主と利用者の損失となって跳ね返ってくる。

 ところが、見学会のプログラムも原発の安全性を強調するプレゼンテーションばかりで、新設や災害時復旧時の工程短縮や定期検査期間の短縮による稼働率アップなどの効率性の向上努力については、まったく聞かれなかった。東電の社内では、当然検討されているのであろうが、東電の株主や電力の利用者が一番知りたいのは、原発稼働率向上などの生産効率向上のためのコスト削減施策である。

 アニュアル・レポートには、全体の91%を占める電気事業と関連の4事業についてのセグメント情報が示されているが、肝心の水力・火力・原子力別のセグメント計数は一切ディスクローズされていない。また、電力会社がもっとも頭を悩ませている地元自治体や反原発団体との交渉経緯や経営への影響については、ホームページにも出ていない。工事中に頻発した小火災と原子炉本体の安全性との関連の有無についても、説明されていない。電力会社には、投資家・利用者が知りたいこのような経営情報についてのIR充実強化を強く要請したい。

(日本個人投資家協会理事 岡部陽二)

(2009年5月7日、日本個人投資家協会発行「きらめき」2009年5月号所収)

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