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<投資教室>今こそ新興市場IPOの活性化を

 
 新興市場への新規上場件数は、表1右欄のとおり、2004年の143件をピークに減少を続け、2009年には13件とボトムを記録した。その後は、緩やかながら回復基調にあり、2012年には40件近くの新規上場が見込まれている。株価も日経ジャスダック平均株価指数は、2009年の1,000円から最近では1,300円前後にまで上昇、最近ではIPO人気のパロメターとされている初値倍率も総じて良好である。

 他方、新興企業の上場受け皿として、ジャスダックに加え大商ヘラクレスと東証マザーズの3市場が鼎立してきたが、2010年 10月にはジャスダックとヘラクレスが合併、来年1月には東証と大証が合併して、新興市場も1市場に集約される。1市場になっても、東証一・二部の既成大企業向けとは一線を画した緩い上場基準や上場維持費用の低廉化などベンチャー企業の上場に適した上場環境が整えられるのであれば問題はないが、現実には四半期決算、内部統制報告書といった新興企業には負担が重過ぎる数々の過剰規制がますます強化され、新規IPOが阻害されている。

 東証では、新興市場の活性化策として2009年6月にロンドン証取のAIM市場と合弁で「TOKYO AIM」と称する別会社を設立、ロンドンAIMに倣って「指定アドバイザー制(J-Nomad)」を採り入れてIPO増に取組んだ。しかしながら、J-Nomadとなった野村・大和・みずほなど大手6社は、初めから新興企業を育成する責任を負う気はなく、一社の候補先も持ち込まなかった。わずかに、シンガポール本拠の100%外資系であるフィリップ証券が3社のJ-Nomadとなったが、そのうち1社が上場しただけで、本年3月にロンドン証取との合弁を解消して「TOKYO PRO MARKET」と改称した。

 フィリップ証券は今年に入ってさらに2社のIPOを成功させ、現在TOKYO PRO MARKETには3社(メビオファーム、五洋食品産業、新東京グループ)が上場されているものの、マーケット・メーカーが存在しないためにほとんど値がつかない。野村などの大手証券は、TOKYO AIMを潰すために、不作為を重ねる努力をしている観がある。

 TOKYO AIMが失敗した主因は、J-Nomad制度が機能しなかった点にある。その原因は、J-Nomadの資格要件を証券会社に限定し、ロンドンAIM同様にベンチャー・キャピタルやコンサルティング会社などに門戸を開かなかった点に求められる。

 もう一つの原因は、市場参加者を特定投資家に限定したため、個人のプロはほとんど参加できず、市場として機能しなくなったことである。市場への参加者を絞り込むような愚策はロンドンAIMではとられていない。

 東洋経済の「会社四季報・未上場会社版2013年上期」によれば、未上場企業4,162社中、686社が株式上場を希望しており、東証が適切な施策を講ずれば、IPO件数を一挙に増やすことも十分可能である。

 そのためには、TOKYO AIMの失敗要因を分析のうえ、東証は、①一定規模以下のベンチャー企業の上場にはJ-Nomad指定をルール化し、J-Nomadの資格は証券会社に限定せずに他業種からも公募する、②複数のマーケット・メーカー指定を義務付ける、③新興企業には四半期決算、内部統制報告書を免除するなど上場維持コストの大幅圧縮を実現する、④上場前の新興企業への投資インセンティブとしてエンジェル税制の拡充を政府に要望する、といった施策を早急に講じて頂きたい。

 上記の①については、東証は、今般「沖縄県産業振興公社などが出資する『OKINAWA J-Adviser』をJ-Nomadとして承認する」と発表した。証券会社以外をJ-Nomadに指定するのは初めてであり、今後急速に拡大することが望まれる。

 ロンドン証券取引所が、サブ市場として、1995年に開設したベンチャー企業向けのAIM市場(Alternative Investment Market、新型投資市場)は 、世界でもっとも成功した新興市場としての評価を得ている。設立後17年間に3,200社が約800億£(約10兆円)の資金を調達した。2012年8月末現在の上場社数は1,110社(うち外国企業226社)、時価総額588億£(約7.5兆円)となっている。

 新規の上場(IPO)社数は表1に掲げたように、2005年には519件とピークを記録、リーマン・ショック後の経済不況で激減したものの、その後は回復基調にある。英国のGDPは2.43兆ドル(2011年)とわが国の40%程度の経済規模であり、経済規模を勘案すると、英国の新興企業IPO件数は、わが国のほぼ4倍という活況を呈している。

 AIM市場が成功した最大の要因は、取引所による上場審査を廃し、Nomad(Nominated Adviser、指定アドバイザー)という民間のプロに上場審査から上場後の経営指導に至るまでの支援業務を一任する制度設計としたことである。

 Nomadはロンドン証取によって定められた基準をクリアーした企業だけがその資格を得ることができる。具体的には、会計会社・投資銀行・企業金融専門のコンサルタント会社、証券会社などが60社余り登録している。Nomadは證券取引所が行なう審査機能代行に加え上場後の経営支援をも担当、Nomadの業務は助言と言うよりは指導に近いものである。ゴールドマン・サックスやJPモルガンなどもNomadの資格を取得しており、過半はブローカー兼業であるが、証券業のライセンスは必要要件ではない。Nomadには、次の3つの役割が期待されている。

①企業の上場承認が適切かどうかについて、審査のうえ決定すること
②上場手続きを遂行させること
③上場後もAIMのルールや企業統治の原則を順守しているかどうか点検すること

 AIM市場のメリットは、上場時の審査などに要する費用がせいぜい1億円程度と安く、上場後の維持費用も、Nomadへの支払(約5万£)、社外取締役3名の報酬(約12百万円)、監査費用、弁護士費用などを含めて年間15~40百万円と低く抑えられていることである。また、内部統制報告書の提出も不要とされている。

 ロンドンAIMでは,AIMに投資する個人投資家には①投資額の20%を所得税から控除、②キャピタルゲイン課税の減免、③相続税の減免などの措置がとられており、AIMへの投資促進の旧力奈インセンティブとなっている。

日本個人投資家協会理事 岡部陽二)

(2012年10月15日刊行、日本個人投資家協会・月刊紙「きらめき」2012年10月号所収)

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