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高配当利回りのオーストラリア株に注目



 主要国の金融緩和により、日欧ではマイナス金利が長期常態化し、債券市場への投資機会が大きく減退している。

 一方、配当利回りの高い銘柄の比重が比較的に高い先進国株式市場では、債券利回りを大きく上回る高配当利回り株への投資による利回り追求の機会が増大している。

 先進国の中でも、オーストラリア株は配当利回りの水準が高く、投資対象として注目を集めている。個人投資家にとっても、数年前に高利回りの魅力で投資した豪ドル建て債券の満期到来時の買換え対象として考慮に値する。

 当然のことながら、外国株投資に当たっては、配当利回りのみならず、株価や為替の変動リスクについての慎重な吟味が不可欠である。

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世界的な低金利で高配当株への投資魅力増大

 全世界平均の株式配当利回り;2.4%に対し、オーストラリア株;4%、英国株;3.7%が群を抜いて高い。(表1) 

一方、先進国では、米国株、日本株の2.0%が最も低い。

 米国株の平均配当利回りが低いのは、利益の全額を新規投資に振り向けて無配を続けているアマゾンなどの大型高成長株が多いためである。

 逆に、日本株は利益を現金でため込んで配当しない成熟企業が多いため、平均配当利回りが低い。日経225採用銘柄の平均配当利回りは1.77%とさらに低い。日本でも配当総額は上昇を続けてはいるものの、配当性向が35%程度で横這いに留まっている点も配当利回りの足を引っ張っている。

 外国人投資家は確実な利回りを確保する手段として、増配を期待できる日本株銘柄の物色に動き出しているが、オーストラリア並みの高配当株を見つけるのは至難の状況である。

 国債利回りよりも株式配当利回りの方が高い現状は異常であり、米国のみ正常化への道へ踏み出している。オーストラリアでも2000年には7%を超えていた10年物国債の利回りが2.4%まで下がったが、来年以降には利上げが見込まれており、米国に次いで正常化が進むものと予測される。


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オーストラリア株が高配当を続けられる利益の源泉は?

 オーストラリアの上場企業は規律の高い資本政策と一貫した高配当指向を継続してきた。(表2)

 オーストラリア株の高配当利回りは、過去15年以上にわたり、配当を支払う企業が常に70%以上という高い割合で存在し、かつ配当性向が60%前後で安定的に推移している株主重視の企業風土に支えられている。

 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究によれば、1900年から2011年までの111年間を通してオーストラリは世界の主要株式市場の中で最も高い実質収益率をを上げてきたと評価されている。

 オーストラリア株の配当利回りが高い理由としては、電気通信サービス、金融、小売業など需関連セクターにおける上位企業の占有率が高く、これらの大企業が大規模経営による効率性や価格決定の優位性などを背景に強い競争力を保ってきたことが指摘されている。

 一方、資源関連株は市況変動による浮沈は激しいものの、国際競争力は格段に強く、資源ブームに沸いた2012年には、オーストラリア株の平均配当利回りは5.4%に達していた。

 資源ブームの去った現在でもRIO TINTOやBHP BILLITONは表2に見られるような高配当を維持している。

 また、WESTPAC BANKINGの時価総額は約9.7兆円で、三菱UFJ(9.8兆円)と並ぶが、2017年の予想配当利回りは5.4%と、三菱UFJの3.4%を大きく上回っている。

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もはや資源依存ではなく、好調な経済は内需が主導

 オーストラリアのGDPは1991年に2四半期だけマイナス成長を記録して以来、一度もリセッションを経験することなく、26年間にわたって安定したプラス成長を続けている。(図1)

 リーマン・ショック時にも、大胆な財政出動でマイナス成長を回避したのは、先進国の中では同国だけである。主な先進国の中でこれほど長いプラス成長を記録した例は、80年代に北海油田の発見に沸いたオランダ(1982~2008年)以外には見当たらない。これを凌駕すれば、歴史的な世界最長記録となる。

 一人当たりGDP(2017年、IMF 予測)も、5.1万米ドルと、わが国の4.3万米ドルを2割ほど上回っている。物価上昇も年率平均2.4%と理想的である。

 昨年央には資源価格の下落や国内政治の混乱などで景気の低迷が懸念されたが、その後持ち直して、本年度のGDP成長率予測(IMF、2017年4月)は3.0%と先進国平均の2.0%を大幅に上回っている。

 オーストリア経済に対する最大の誤解は、同国を資源依存国の範疇に入れる見方である。以前は確かにそうであったが、現在では資源関連産業が同国GDPに占める比率は9%、総雇用に占める割合はわずか2%に過ぎない。

 年間30万人を超える移民増と効率的な社会保障をベースに内需振興によって支えられている同国経済の根強い成長力に目を向けるべきである。

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(日本個人投資家協会副理事長 岡部陽二)

(2017年7月6日、日本個人投資家協会機関紙「ジャイコミ」7月号、「投資の羅針盤」所収)









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