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知っておきたい債券税制の改正点

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20161月から債券・債券投信についての税制が大幅に改正され、証券一体課税がようやく実現する。預金利子は含まれないので、金融取引一体課税とは言えないものの、証券取引についての税制が一本化されるのは画期的である。

個人投資家にとっては、これまでは非課税であった債券の譲渡損益に課税されるなど不利な面もあるものの、債券の利子などを株式の売買損益などと合算して損益通算できるようになるのは朗報である。納税手続き簡素化のメリットも大きい。

この債券税制改正の概要と留意点につき、解説したい。


個人の債券保有は総金融資産の3%未満と僅少

 本年6月末に1,717兆円に達したわが国の個人金融資産内訳を見ると、預貯金が52%を占め、債券・債券投信は44兆円(債券26兆円、公社債投信14兆円、MMF4兆円)と総金融資産の3%にも満たない。債券・債券投信44兆円のうち、外貨建ては外債4.4兆円、外債投信・MMF2.2兆円、計6.6兆円(20158月末、インペリアル・ファイナンス&テクノロジー社調べ、94日付け日経紙)と推測されている。保有外債の通貨別では、豪ドル1.3兆円、米ドル0.6兆円が大きい。


 個人の債券投信保有額についてみると、わが国では18兆円(上記公社債投信とMMF等の合計)に過ぎないが、米国では7.5兆ドル(約900兆円、昨年末)に上っている。国民一人当たり平均の債券投信保有額では約20倍の大差がついている

米国の債券投信7.5兆ドルの内訳は公社債投信4.9兆ドル、MMFなど2.6兆ドルとなっている。米国人のMMF保有額2.6兆ドルは銀行預金残高9兆ドルの1/3に達しており、MMF保有額がわが国に比して圧倒的に大きい。

 このように、現状では個人が保有する債券関連資産は僅少であって、税制改正の影響も軽微であるが、わが国も今後は米国型の証券保有構造に変わらざるを得ないと考えられるので、この改正は重要である。


証券一体課税の骨子~損益通算がポイント

来年1月以降、これまで課税の方式が区々であった公社債・公募公社債投信の損益にかかる税金が一律に上場株式や公募株式投信の損益にかかる申告分離課税(20%)と統一され、損益通算が可能となる(表1)。「源泉課税なし」の特定口座では、複数の特定口座間でもすべての証券取引損益について3年間にわたり損益の繰越が認められる。

債券・債券投信についてこの損益通算のメリットを受けるには証券会社に新たに「特定口座」を開設するか、すでに開設済みの「特定口座」に組入れて貰う必要がある。大手の証券会社などは「一般口座」から「特定口座」への移管手続きを自動的に行なってくれるが、ネット証券などでは口座開設者が手続きを行なう必要がある。ただし、すでに保有している債券・債券投信の取得価格が確認できない場合には移管できない。

また、今回の改正により、償還差益や一部の譲渡損益が一定額以上発生した場合には、総合課税において配偶者控除の対象から外れるといった不都合もなくなった。

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為替相場変動に伴う評価損益に留意

債券に投資をすると、3つの収益を得られる可能性がある。1つ目は利子で受取時に税金を天引きされ、税引き後の利子を受取る。2つ目は債券を満期日まで保有した場合に受取る償還差損益で、現行税制では総合課税(他の給与所得などと合算して課税され、累進税率を適用)されている。3つ目は債券を期中に売却した際に発生する譲渡損益であり、これは現行税制では非課税である。債券投信・MMFについては、この3つの損益が譲渡損益に集約され、非課税となっている。

国債中心の円建て債券については、償還差益も譲渡損益もほとんど発生せず、利子のみへの源泉課税であるので、利子収益を損益通算に使えるようになる以外には今回の改正による影響は受けない。影響を受けるのは主に外債と外債投信・外貨MMFへの投資である。

現行税制で総合課税の対象となっている外債の償還差益については、新税制では個人投資家が得る他の所得の水準によって有利・不利に分かれる。課税所得の額が330万円以下の人は税率が上がるため不利、それ以上の人にとっては利子所得が分離されるため有利と計算されている。ただ、これまでも償還差益が総合課税に算入されることを回避するために、満期日の2~3日前に売却して非課税の譲渡損益として扱われるように処理したケースが多かったので、実体的にはあまり変わらない。今後はこの満期日前売却の手間が省けるというメリットがある。

外債や外債投信の譲渡損益については、これまで非課税であったものが、課税扱いとなるので、個人投資家にとって一方的に不利となるように見える。しかしながら、上述の外債・外貨投信7兆円弱の個人保有のうち、米ドルと豪ドル建ての一部を除く過半の新興国通貨建て外債への投資では大幅な円安にもかかわらず、中国ショックなどの影響の方が大きく、現時点ではかなりの含み損を抱えている状況にあるものと推測されている。このような投資家にとっては、外債売却時にその実現損を外債利子や他の証券取引との損益通算に使えるメリットの方が大きいのではなかろうか。

そもそもブラジル・レアルなど高金利の新興国通貨建て外債への投資は利子収益と通貨安による為替差損を通算して総合収益の確保を狙うしかないディールであるから、今回の改正により損益通算が可能となったメリットには大きなものがある。

他方、強い通貨である米ドル建て債券や債券投信・MMFへの投資では大きな譲渡益が実現でき、非課税のメリットを享受できる本年内に売却する方が有利なケースもある。たとえば3年前の20129月に当時の為替レート79/$1.0010万ドル(790万円)の米ドルMMFを購入した人が今日120/$1.00で売却すると4.1万ドル(492万円)の譲渡益が得られ、しかも非課税である。このように幸運な投資家に肖りたいものである。

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(日本個人投資家協会副理事長 岡部陽二)

(2015年10月7日発行、日本個人投資家協会機関誌「ジャイコミ」2015年10月号所収)










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