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海外最前線・住友銀行(上)

アラブ12ヵ国飛び回る

「想像を絶する暑さで日本に戻ったり、ロンドンに出張すると生き返る心地がする」。バーレーンの住友銀行の初代事務所長として昨年十月赴任した五十川惟一氏は日焼けした顔でこう語る。

 バーレーンはペルシャ湾に浮かぶ六百平方キロに満たない島国である。かつては石油に依存する経済だったが、石油の埋蔵量が減少し始めたことから、ポストオイルの目玉として金融立国をめざすことになった。折しも中東の金融センターであるベイルート(レバノン)が戦火続きだったことも幸いし、世界の有力銀行七十行以上がバーレーンに進出、中東の一大金融センターを形成した。

 こうした中で住友銀行も昨年十月に事務所を開設したものだが、バーレーン事務所のねらいは何といってもオイル・マネーの還流である。OECDなどによると八〇年末のOPEC諸国の経常余剰は三千六百七十億ドルに達し、八五年には七千億ドルを突破するといわれている。これらオイル・マネーをいかに世界に流していくかが、国際金融界にとって最大の関心事になっているわけだが、バーレーンはその先兵になっている。

 同行の場合、五十川所長以下四名の日本人と三名の現地人の七名で、駐在員事務所としては大所帯である。しかし、これら七名が「全員顔を合わせることは一ヵ月に一回あるかないか」(五十川所長)である。サウジアラビア、クウェート、イラク、シリアなどアラブ十二ヵ国を飛び回っているためである。

 バーレーンからはこれら各国に直行便が出ており、だいたい一時間で行ける距離にある。各スタッフは中央銀行などに日参して預金獲得や投資の相談に乗ることを日課としている。その意味では「国内の外交と全く変わりない業務」(同)の毎日である。といってもてバーレーンでは預金を受け入れることができないため、ドル預金やフリー円として東京の本部やロンドン支店に繋ぐことが業務なわけ。

 しかも中東諸国は急速な近代化による反動を防ぐためオイル・マネーを金融資産として蓄積する傾向を強めており、世界の金利動向に敏感になっている。それだけにいかに正確な情報をこれら産油国に伝えるかが「駐在員の腕の見せどころ」(同)だという。幸いにしてバーレーンは海外に目を向けているだけに良質の情報が入ってくるといわれている。

 この駐在員事務所はオイル・マネーの還流のほかにもう一つ大きな役割を持っている。わが国企業の輸出商談のサポートである。日本の商社マンなどが必ずといって良いほどバーレーンに立ち寄ってから中東諸国に散っていくほど、バーレーンは日本にとっても重要な地位を占めており、「現地に溶け込みさえすれば面白いところ」(同)というほどである。

 これに対し「やってもやっても益のない泥沼の戦争を続けている」(国際金融筋)のがロンドンにある現地法人である。住友も「住友ファイナンス・インターナショナル」という現法を持っているが、いわゆる証券業務のための現地法人であり、預金などの業務が出来ないことになっている。外国の現法は銀行業務ができるため「国益に反する争いを強いられており、外銀に漁夫の利を取られてしまう」(岡部陽二住友ファイナンス・インターナショナル社長)ことになる。

 それでもユーロマーケットでの起債引き受けや販売、国際シンジケートローンの組成、あっせん、ユーロ債のディーリングや日本銘柄についてのマーケットメトメーカー、そして資産運用と投資についてのコンサルティングなどの業務で「外銀に負けないだけのことはやっている」(岡部社長)。

 起債引き受けでは伊藤忠や熊谷組、北辰電機、三洋電機などに混じって欧州投資銀行、欧州石炭鉄鋼公社など海外からのものもあり、同ファイナンスは世界的に認知されている。ただ幹事業務は争奪戦が激しく、ディーリング部門も利の薄い商売になっていることも事実。

 こうした状況が続けば「欲求不満が高じてぐる」(同)ことは必至で、ロンドンに現法を持つ銀行にとっては何としても銀行業務を併営できるようにしてもらうことが切実な希望であり「一日も早く外銀と同じ土俵に乗りたい」(同)という。

(1980年5月19日付け、日刊工業新聞p2「海外最前線」18、「住友銀行」(上)所収)

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