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<投資教室>独立社外役員を育てよう~社長解任劇に見るガバナンスのあり方

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 東証・大証などは、本年3月1日に終了した事業年度以降、上場会社が一般株主保護の観点からの遵守すべき事項として、一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役を「独立役員」として1名以上確保し、証券取引所に届出ることを上場規則で義務づけた。届出には一年間の猶予期間が設けられており、一部の会社が未決定であるが、すでに上場会社の9割程度が一社平均1.9人の社外役員の届出を行なっている。届出られた顔触れの約76%を社外監査役が占めており、総数が多い社外取締役からの選出は相対的に見てきわめて少ない。

 独立役員には、上場会社の取締役会などにおける業務執行にかかる決定の局面などにおいて、一般株主の利益を配慮した必要な意見を述べるなど、一般株主の利益保護を踏まえた行動をとることが期待されている。

 独立役員の「独立性」の要件としては、①経営者の親族、②親会社の役職員、③当該会社から顧問料などの報酬を得ている者などは不適格として例示しているだけで、必ずしも明確ではない。取引銀行や主要取引先の役職員は排除されていない。

 独立役員が一人や二人選任されることによってどの程度コーポレイト・ガバナンスが強化されるかは疑問ではあるものの、一つの前進としてこの証取ルールを高く評価したい。もっとも、これは最低限の要請であって、独立社外役員制度が有効に機能するか否かは今後の運用に掛っている。

 わが国では、社外取締役・監査役の導入は会社法により、独立役員は取引所規則によりルール化されてきたが、欧米にはこのような法制は存在しない。上村達男早大教授の考察では、欧米では株主代表訴訟など訴訟の積み重ねにより、独立取締役を採り入れざるを得なくなったために、企業が防衛上やむなく採り入れた仕組みである。独立取締役が一定数いる取締役会で承認された事柄なら、経営者や管理職個人の責任は問われない、あるいは軽減されるので、徐々に普及してきた業界慣行である。事実、米国でも大会社で社外取締役が過半数を占めるようになったのは、80年代以降のことである。

 そこで、最近相次いだ東証上場大会社の社長解任劇をケース・スタディとして、独立役員のあり方について考えてみたい。この二社ともに、社長解任のプロセスに社外役員が深く関わっているが、これは三越やイトマンを典型とする以前の社長解任劇では観られなかった現象であるからである。

1、富士通・野副州旦前社長の解任

 この解任劇の一部始終はきわめて複雑であるが、ガバナンスに関連する部分だけを摘記する。

(1)昨年9月25日に富士通本社で開かれた取締役会に先立って当時の野副社長が別室に呼び込まれた。そこで、山室恵社外監査役から当時進めていた子会社ニフティーの売却交渉に関連して、売却候補先のX社が「反社会的勢力」に当るので、これが表沙汰になると富士通が上場廃止に追い込まれる危険があるとして、企業防衛の見地から即刻社長を辞任するよう求められ、その要求に屈せざるを得なかった。ただし、社長辞任後も相談役として遇し、辞任の理由は「病気のため」とするよう強要された。

(2)山室恵社外監査役は地下鉄サリン事件やリクルート事件でも判決を言い渡した高名な裁判官で、2004年に退官、現在は東大法科大学院の教授、5年前に富士通の非常勤監査役に選任されている。野副前社長は、その当時は取締役でなく、その選任には関わっていない。山室恵社外監査役の尋問に同席したのは、山本卓真顧問(84歳)、秋草直之取締役相談役(71)、大浦溥取締役(75)(以上3名は社長・会長を務めて退任した長老)、間塚道義代表取締役会長(65)と法務部長の5名。

(3)野副前社長は、本年初まで沈黙していたが、本年2月26日付けで「辞任取消通知書」を富士通全役員へ送付、4月7日には記者会見を開いて「虚構を基に密室で社長を解任するようなことは二度と起こしてはならない」と富士通のガバナンス欠如を痛烈に非難し、秋草相談役・間塚会長に対する株主代表訴訟提起の準備を進める一方、富士通に第三者調査委員会の設置を求めている。マスコミに対しても、文藝春秋5月号に「仕組まれたわが解任劇」という手記を発表、会社側が裁判所に提出した密室での会話記録テープを公開するなど、精力的に動いている。

(4)富士通は本年3月6日に野副氏の辞任理由を「病気」から「取引などの関係を持つことがふさわしくない企業と関係を続けたため」と訂正、相談役から解任した。この辞任理由の変更開示に対し、東証は当初の開示が虚偽であった点を厳重注意したが、業務改善命令は出していない。

(5)一方、「反社会的勢力との関係が疑われる」と言われたファンドは、富士通は事実を誤認したうえに名誉棄損を繰り返したとして、間塚会長ら3名を相手に総額3億3,000万円の損害賠償と謝罪広告を要求する民事訴訟を提起している。

(6)富士通の取締役10名の中には、北川正恭元三重県知事とガバナンス論の大家である野中郁次郎一橋大学名誉教授が社外取締役に選任されていたが、この両名は今回の改選で静かに退任し、今回の前社長解任には関与されていないものと見られる。

 野副前社長解任の真の理由やことの当否を両者の言い分から突き止めるのは困難であるが、前社長自身が明言している以上、富士通のガバナンスに重大な欠陥があることだけは間違いない。

2、セイコーHD・村野晃一前社長の解任

 本年4月30日にセイコーHD本社で開かれた取締役会での冒頭、村野晃一会長兼社長が開会宣言をした直後に、社外取締役の原田明夫元検事総長から村野社長解任の緊急動議が提出され、取締役6名中村野氏を除く3名の賛成多数で可決された。次いで、服部真二副社長を社長が選任され、鵜浦典子取締役の業務執行停止も可決された。その間、わずかに5分、電光石火の社長更迭であった。

 しかしながら、真の解任対象は社長ではなく、服部礼次郎名誉会長(89歳、HDの100%子会社和光の会長・社長)の威光を後ろ盾にパワハラを繰り返していた鵜浦典子取締役(和光の専務)であった。彼女をコントロールできない村野社長更迭に動いたのは、セイコーの財務体質悪化に業を煮やした主取引銀行とHD社外監査役の元第一勧銀頭取の近藤勝彦氏であったと報じられている。この契機となったのは、労働組合と一部の株主から株主代表訴訟の動きがあり、これを受けた監査役が現経営陣の経営責任やパワハラの実態を調べる6人の弁護士による調査委員会を立ち上げた動きにあった。5月11日には、服部礼次郎名誉会長が和光社長を辞任、村野社長、鵜浦取締役も辞任している。

3、独立社外取締役の重要性

 上述の2事件に鑑み、東証には次のような「独立性」確保に向けての規則の強化を望みたい。

(1)両社ともに社長解任に社外監査役が重要な役割を演じているが、監査役は取締役会での投票権はなく、重要人事に直接は関われない。そのため、監査役には主導権はなく、黒子として利用されている嫌いがある。やはり、人事に関与できる社外取締役の機能強化が必要であり、そのためには、最低でも独立役員の一人は社外取締役とするように定めるべきである。

(2)両社ともに、ガバナンスの欠如は、社長が真の実権者ではなく、長老が人権権を握っている点にある。長老を取締役や相談役として君臨させること自体が問題ではあるが、独立性の高い社外取締役を取締役会に入れることにより、長老支配の弊害をある程度は排除できるものと期待される。「独立性」の基準については、ゴルフのルール並みに厳しく設定することが不可欠である。

(日本個人投資家協会理事 岡部陽二)

(2010年6月15日、日本個人投資家協会発行月刊紙「きらめき」2010年6月号所収)

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