個別記事

退任にあたって・残駆天所許 不楽復如行

  36年間の永きに亘りお世話になりました住友銀行を去り、住友銀行グループの一翼を担う明光証券株式会社に奉職するに当り、一言ご挨拶申し上げます。この36年のうちほぼ30年を国際部門で過ごしました。この間言葉の問題や異文化との付合いで苦労もしましたが、素々楽天的な性格が幸いしてか、私自身は大変楽しく仕事に打込むことが出来、ご一緒頂いた皆様方に感謝の気持ちで一杯でございます。

 また、ロンドン駐在は前後合わせて13年に及び、先達ても「ロンドンに飽きたる者は人生に飽きたる者なり、何となればロンドンには人生を楽しむに必要なもの全てが存在するから」というサミュエル・ジョンソンの名文句を泉苑誌上でご紹介しました。このロンドンの生活で、ロンドン、更に広く欧州では言語・文化にしろスポーツにしろ大変バラエティーに富んでいて、人々の行動様式もバラバラで個性的・自己主張型であって、すべてが画一的で没個性・集団思考型の日本とは全く対照的であった点が強く印象に残っております。

 この差異に起因した仕事上の苦い経験はさておき、プライベートの面では小・中学生の頃から持っていた切手と鉱物・化石の収集癖が焼け棒杭に火がついたように蘇り、日本では得難い楽しみを掴むことが出来ました。初回のロンドン勤務時にはふとした切っ掛けからチャーリング・クロス辺りで毎集末に開かれる露天商で「銭四十八文」をはじめ高額の普通切手が捨て値同様の安価で買えることを発見しました。ロンドンは金融センターであるだけではなく、骨董品などあらゆる商品の集散機能を持っている訳です。その後、パリやローマにも足を伸ばして日本切手の完璧な収集が欧州で完成した次第です。

 次は「石」の収集で、学生時代にはハンマー片手に野山を駆け廻って採集していたのですが、銀行に入ってからはその余裕もなく、半ば忘れかけておりました。ところが、ロンドンはじめ欧州各地には貴石・鉱物・化石などを専門に売っている店が数多くあり、更にはモロッコやブラジルといった原産地にまで休暇に旅行をして集めた結果、珍しく且つ美しい「石ころ」が300個ばかり溜りました。

 ところで、先般32年前に初めて外国部勤務を仰せつかった時に部長をしておられた「太田武比古さんを囲む会」に出席、80歳にしてますますご壮健でいらっしゃいます太田さんから「青春には二つあって、一つは60歳の還暦を過ぎてから始まる」というご卓見を拝聴した上、伊達正宗が詠んだ次のような漢詩の書を頂戴しました。

  残駆天所許   不楽復如行

 (残駆天の許すところ、楽しまずんば、またいかん.~最後の二連のみ掲出)

 私も来年には還暦を迎える訳ですが、天のお許しを得て心の持ち方次第で如何ようにも楽しめる「第二の青春」を公私共に謳歌したいものと念願しております。 

 永い間、本当に有り難うございました。

<当行での主なご経歴>

昭和32牟4月l日入行以来、立売掘、備後町各支店、外国部、本店(加州住友銀行)、本店営業部、外国業務部(東京)、国際金融部次長を経て、国際業務部副部長、東京営業部副部長、調査役(住友ファイナンス・インターナショナル)、国際投融資部長を歴任。昭和57年6月取締役就任、国際投融資部長委嘱。同59年1月ロンドン支店長委嘱。同60年10月常務取締役就任。同62年4月欧州駐在委嘱。平成元年4月専務取締役就任。同4年9月委嘱を解かれ、同5年3月31日辞任さる。

(明光証券株式会社  取締役会長・元当行専務取締役・岡部 陽二)   

930701taininniatatte.jpg


 (1993年7月(株)住友銀行広報部刊行の「泉苑」第444号第17頁所収)

 

         

 

コメント

※コメントは表示されません。

コメント:

ページトップへ戻る