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私の大学教育改革論
~相互評価による教員評価と任期制・年俸制の導入が不可欠~

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 岡部 陽二

  銀行を退職後、1988年から71歳で辞めるまで丸7年間、広島国際大学医療福祉学部教授を勤め、国際経営論などを担当、フルタイムの大学教員として働いた。そこで感じたのは、勤務環境の急激な変化であった。銀行では国際金融マンとして営業一筋であったこともあり、緊張度の高い競争社会を経験してきた。これとは逆に、大学は競争のまったく存在しない無重力の世界のような感じであった。その理由は、大学教員の教育実績はまったく評価されることがない微温的なシステムに保護されているからであるということに気づいた。
 教育者の使命は学生に自ら考えて行動する力をつけさせ、厳しい競争社会を生き抜けるような人材を育てることである。そのためには、教育の質を高める必要があるが、教育の質の向上は教員間の切磋琢磨による激しい競争によってのみ実現するのは、産業界におけるサービス競争による品質向上と何ら異なるところはない。したがって、教育改革のキーワードは、「教育現場への教員間の競争原理の導入」である。大学間・学生間での競争を促進するには、まず大学教員間の競争環境を作ることが肝要である。 
 そこで、結論として、四年制大学の教育現場に導入すべきシステムは、 
1、教育実績についての相互評価(ピア・レビュー)を中心とする教員の相対評価実施 
2、この評価の仕組みを活用しての大学教員への「任期制」「年俸制」の導入の二点である。  
 大学教員の責務には大きく分けて、教育と研究があるが、日本の大学教員は大学の種別を問わず、研究重点志向である。ここでの問題意識は、教育職としての大学教員の資質確保が中心であって、大学院や研究所の研究職は対象としていない。 世界14ヵ国で行なわれたカーネギー教育振興財団の大規模調査の結果でも、日本の大学教員(研究専門職は除く)の70%が教育よりも研究が大切と自己判断しており、この比率が他国と比べて格段に高い。 
 教育よりも研究を重視する教員の意識は、研究は評価されて報酬増などにも結びつくが、教育ではいくら頑張って立派な教育をしたところで、誰からも評価されず、昇進や増収にも直結しないという評価の存在しない雇用形態に由来するものと考えられる。研究の場合には、学会発表、研究誌への論文掲載、出版などを通じて学会での評価、被引用回数、受賞、研究助成などによる評価がなされ、それが学内での処遇にも大いに影響するが、学生に対する教育についてはこの「評価」が完全に欠落しているのである。 
 大学で教育面についての教員評価システムが欠落している理由の一つは、教育者としての責務をどの程度十分に果たしているのかを客観的に評価するのが難しいという点にある。
 そもそも、大学では評価をする上司や人事責任者が誰であるのかも明確になっていない。教員の採用時には、専門の部局が審査をし、教授会の承認を得て決定する方式をとっている大学が多いが、評価の対象は主に研究業績などであって、教育者としての資質はあまり論議されない。
 その結果として、一旦採用されれば、教育にかける時間を極力抑えて、研究のみに精を出したり、なかには学外での活動に専念したりするような不心得な教員も出てくる。評価システムが存在しないので、たとえば、十年前に廃れてしまった経営理論を十年一日のごとく講ずる先生や実用英語の授業で聖書だけを教えるといった学生の期待に沿わない教員が現れるのも不可避である。
 
  評価方式には、自己評価、相互評価(ピア・レビュー)、第三者評価の三類型があり、それぞれに意味があるが、独立性の高い教育職については、医師や看護師などの評価と同様に、「相互評価」が重視されるべきものと考える。
 要するに、緊張感のある相互監視の下で、教育方法に絶えざる自己研鑽を積み重ねる努力を強いるシステムを確立することである。相互評価は全教員の授業を同僚の教員が聴講して評価をする方式が基本となるが、教育者としての日常の活動振りは同じ職場で働いていれば、よく分かるものである。学生から評判を聞くだけでもかなり的確な評価が可能である。
 教員相互の評価を集計すれば、優秀な教員と劣悪な教員との見分けが容易にできる。評価の結果は、学長直轄の審査委員会で集計分析して、人事考課に随時反映させる。この方式を採用することにより、教員にも競争意識を持たせ、教育現場で真に学生の学力や品性向上に役に立つ教育をする優れた教員に報い、教育には不熱心で不向きな教員を排除することが可能となる。企業においては、これは当然のことであって、要は差別化を繰り返して昇格者を絞り込むことに勤務成績評価が活用されている。 
 次に、この評価の結果を勤務評定に反映させるには、「任期制」と「年俸制」の導入が不可欠となる。最近では、理事長に元日本郵船副社長の高橋宏氏を迎えた首都大学東京がわが国の四年制大学では初めて大学教員の「任期制」と「年俸制」を全面的に採り入れる決定をした。
 任期制の導入により、従来の講座制、年功序列型の体制を廃し、能力、業績評価により弾力的な昇進の道を開くことを狙っている。 この結果として、昨年のリクルート大学評価では、首都大学東京が「将来大きく発展しそうな大学のナンバーワン」に選ばれている。これは、任期制、年俸制と評価制度の導入により、教育に熱心であるという経営姿勢が評価されたものであろう。
 任期制を原則としながら、テニュア(終身在職権)制度を導入している英米の大学の制度は、わが国でも導入を検討するに値する。テニュア制度とは、教員の自由な教育研究活動を保障するため、准教授までは原則として任期制を採用し、教授昇格時にその大学にとって不可欠な人材についてのみ終身または定年まで、教授としての身分を保障する制度である。
 大学教員の任期制、年俸制、テニュア制、相互評価を軸とした評価基準の導入は、国公立大学については、法律で強制すべきであると考える。私立大学についても、補助金算定にこれを考慮すれば、急速に拡大しよう。

(個人会員、医療経済研究機構専務理事)

(2007年7月30日、(社)日本証券倶楽部発行、「しょうけんくらぶ」第82号p14~15所収)

  

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