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<書評>神谷秀樹著「さらば、強欲資本主義 
   ~会社も人もすべからく倫理的たるべし」

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 西暦で1の桁が7の年は大荒れという国際金融界のジンクスが、まさに現実の法則となってきた。1987年のブラック・マンデー、1997年のアジア通貨危機についで、2007年のサブプライム問題の発生である。10年ごとにウォール街の金融権力が積み上げたバブルが弾けるのは当たり前、平穏無事が続くほうがおかしいという見方もあるが、弾けるごとに損害額が増え、被害者の層が世界中に拡散し、実体経済を蝕んでいる事態は看過できない。

 本書の著者は、この過程を「アメリカは、過剰流動性と強欲に牽引され、資産バブルを作ってはあぶく銭を得、またバブルが崩壊してはそれを失う。その苦境をまたバブルを作って乗り切ろうとする」と解説している。

 これに対する処方箋のひとつとして、真の富は、実際に新たな価値を生み出す技術革新からしか生まれないので、アメリカが再び新技術を生み出すマグネットとなることを、著者は挙げている。アメリカが有するこの面でのポテンシャリティーへの著者の期待と信頼には揺がないもがある。

 いまひとつは、金融人一人ひとりの内なる心の持ち方の転換である。一人ひとりが、自己の利益だけを他の人の犠牲のもとに貪欲に追求するという生き方から脱却し、忠誠・信仰・家族・コミュニティーなどの基本的価値観に軸足を置いた仕事のやり方・生き方を提唱している。ウォール街の常識である「今日の得は僕のもの、明日の損は君のもの」という考えを改めて、新たな精神のルネッサンス(人間復興)を呼び起こすしかないとの熱い想いに溢れている。

 かくなる転換を実践した著者の生き方は、やはり金融界で働いている一人息子の教育面で、すでに結実している。息子、曰く「僕はアカデミック・スマート(お勉強がよくできること)ではないけど、ストリート・スマート(実際の世を生きていゆく実学に長けるということ)ではあるんだよ。この世の中で一番大切なものはネ、お金じゃないんだよ。忠誠(ロイヤルティー)なんだ」

 このような身近なエピソードが、読者であるあなたに宛てた「おもてなしの心が失われた理由」「真のリーダーは偉ぶらない」など17通の手紙に綴られている。本書の価値は、単なる経済や金融の解説書ではなく、その根底にある金融人の生き方について、きわめて平易に噛み砕いて、読者に問いかける人生哲学の本となっているところにある。著者が敬愛する聖フランチェスコやヨハネ・パウロ二世、マザー・テレサなどの含蓄深い言葉から、われわれは何を学ぶべきか、懇切に教えてくれる。

 著者の神谷秀樹さんは、75年早稲田大学卒、住友銀行、ゴ-ルドマン・サックスを経て、92年にニューヨークで投資銀行"Roberts Mitani LLC"を創業、この間の事情は、2001年6月に上梓の「ニューヨーク流・たった5人の大きな会社 」に詳しい。(2008年6月、亜紀書房刊、本体1,800円)

(岡部陽二)

(2008年8月1日、財団法人・外国為替貿易研究会発行「国際金融」1191号、p85所収)

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