個別記事

24 大自然の旅──夢の洞窟探検 


 ロンドン時代には業務出張で休日が潰れることが多く、腰痛にも悩まされたが、疲れを意に介せず寸暇を惜しんで、コンサートや美術館などだけではなく素晴らしい自然景観を見にあちこちに出掛けた。地質に対する興味と珍しい物への好奇心の発露と言える。

 マッターホルン、ユングフラウ、モンブランなどのスイスアルプス高峰はロープウエイなどで簡単に登れるので、よく訪れた。忘れられないのは、富士山とほぼ同じ標高のオーストリアの最高峰、グロスグロックナーまでロンドンからドライブした時のことである。用心はしていたものの、峠を過ぎた急な下り坂の連続でブレーキが過熱して利かなくなり、肝を冷やした。何とかカーブで停車することができ、谷底へ転落することなく生還できた。

 鍾乳洞では、ルクセンブルクに近いベルギー南方の「アンの洞窟」をよく訪ねた。欧州最大規模のチェコのエスキニュ・バルツァルカ洞窟では、地底の水路から外界に出る直前に銃声をこだまさせて驚かせるアトラクションもあって、楽しい思い出となった。

 カールスバッド洞窟探検の念願がかなったのは、一九九一年(平成三年)のことであった。メキシコとの国境の町、テキサス州のエルパソから二百四十キロメートルほどのところにあるニューメキシコ州グアダルーペ山脈の地下に拡がる世界最大級の洞穴である。地下四百八十九メートルの最深部近くまでエレベーターで一気に運んでくれる。そのスケールは山口県秋芳洞の数倍は大きかった。

 世界で最も美しいとされるベトナムのフォンニャ洞窟、世界最大の砲筒型洞窟と折り紙の付いた東マレーシアのディア・ケープへのツアーも特筆できる。二つとも数少ない世界自然遺産であるが、ここを訪ねた人には、まずお目にかかったことがない。

 もう少し、自然との関わりを書き進めたい。

 ビクトリアの滝訪問は、一九八六年(昭和六十一年)十一月のことであった。南半球は初夏で、セスナ機で上空から眺めると、巨大な水煙の柱が何本も立ち上っており、その壮絶な光景の迫力には凄まじいものがあった。ブラジルとアルゼンチンの国境にあるイグアスの滝は二度、ナイヤガラの滝は数回訪ねたが、この二瀑布ともビクトリアには比すべくもない。

 渓谷では米国・加州住友銀行時代に上司の伊藤通さん家族四人と我が家五人の九人が、一台の乗用車に乗ってグランド・キャニオンへドライブした記憶が鮮明に残っている。クリスマス休暇の時であった。ラスベガスを出発した直後から大雪が降り始め、あっという間に一メートルほども積もって道路が封鎖されてしまった。

 ところが、四人乗りのセスナ機での遊覧飛行は運航していたので試してみた。セスナは地平よりも低い峡谷の割れ目のなかに入り、眼前に迫る赤褐色の絶壁にぶつかりそうになると、スーッと上昇して地表に出る。これを何回も繰り返すスリル満点のアクロバティックな操縦には感心した。さすがに、この遊覧飛行は数年後に禁止された。

 オーストラリアの中央に位置し、「地球のへそ」とも呼ばれる世界最大級の一枚岩、エアーズ・ロック(現在名・ウルル)登攀(とう はん)は、一九八一年(昭和五十六年)のこと。アウトバックと呼ばれる乾いた褐色の大地が広がる平原に真紅の巨岩が忽然と現れる光景は神秘的で、他では見られない。

180816136-830731エアーズロック(ウルル)にて.jpg

 一九八六年(昭和六十一年)夏に一週間かけてヌーの大群や象、ライオンなどの野生動物を観察したケニア、タンザニアのセレゲッティ国立公園ツアー、二〇〇六年(平成十八年)に思い切って出掛けた象亀(ぞう がめ)とイグアナを間近に見ることができるガラパゴスツアーも圧巻であった。

 何度も申し込んで、ようやく一九八六年(昭和六十一年)に実現したスペイン北部のアルタミラ洞窟の天井壁画も思い出深い。一万四千年前に描かれた人類初の野牛の像が、今でも脳裏に焼き付いている。

 一九八八年(昭和六十三年)の夏に訪れた世界最大の島・グリーンランドは首都ヌークの近くで三十八億年前に形成された地球上で最古の岩盤が見られた。ヌーク片麻岩と命名されたこの絹糸状結晶質の石はきわめて硬く、風格が感ぜられた。

 もう一つ、この島で驚いたのは、原住民のイヌイット人の顔付きが日本人とほとんど変わらず、しかも愛想が良い人ばかりであった点である。

 二〇一二年(平成二十四年)に旅した世界最後の秘境と言われるブータンも印象深かった。数多くのチベット仏教遺跡だけではなく、海抜一〇〇メートルの密林から七〇〇〇メートル級のヒマラヤ山脈まで高低差が大きく、動植物種が豊富。この自然環境に恵まれた国がいわば原始時代から一挙に高度IT化社会へ変容しつある様は驚異的であった。

 これだけ多くの国へ行っていると「どこが一番良かったですか」とよく聞かれる。私の興味は文化遺産よりも自然景観に偏っているが、万人向けのお薦めは「イスラエル一周の旅」である。その理由は、キリスト教文化の原点となった旧約・新約聖書の旧跡が国中至る所に散在しており、近代西欧文明とイスラム文化を理解するにはこの地域の実見が不可欠と思うからである。


180816138-追加110217タジマハールにて.jpg







コメント

※コメントは表示されません。

コメント:

ページトップへ戻る