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<書評>近藤克則著「医療・福祉マネジメント ~福祉社会開発に向けて~」

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日本福祉大学教授 近藤克則 著
「医療・福祉マネジメント ~福祉社会開発に向けて~」

評者; 医療経済研究機構専務理事 岡部 陽二

 本書は、著者近藤克則教授が,医療・福祉職向けに書いた論文集であり,日本福祉大学の社会人大学院で使われるテキストでもある.臨床レベルの「医療・福祉の統合」から、事業体レベルの「サービスの質向上と経営の両立」、「持続可能な社会」を目指す政策レベルまで、マネジメントの切り口で医療・福祉の質の充実を目指して科学的な理論展開を試みられた極めてユニークな学術書である。初学者・実践家向けのコラムも充実していて、読みやすい。

 「マネジメント」は往々にして利益や効率のみを追求する企業などの経営技術と解され、医療や福祉には馴染まないもの思われてきたが、介護保険とともに導入されたケア・マネジメントや事故対策として注目を浴びているリスク・マネジメントなど、この十年で状況は大きく変わってきている。著者はマネジメントを「限られた資源で最大限の成果を産み出すやりくり」と定義しておられる。さらに遡れば、マネジメント本来の意味は、もともと馬をうまく飼い馴らすところから、正しいことをする(do right things)ことである。計算間違いを正すといった物事を正しくする(do things right)コントロールはとは意味合いが異なる。経営の神様と言われたドラッカーは、時代とともにマネジャーの定義を変えてきたが、最終的には「知識を行動に具体化することに責任をもつ者」としている。

 本書の第一の目的は、この「マネジメント」の重要性を医療・福祉分野のさまざまな課題を取り上げて明らかにすることにある。「PDCAサイクルを回せ」「問題指向から目標指向へ」などのマネジメントの原則と方法論は、医療・福祉のあらゆる局面において有用である。本書は、その具体的な事例を豊富に示している。

 第二の目的は、医療・福祉分野でのマネジメントの特殊性を描き出すことである。生身の人間を扱う医療や福祉の領域では、ビジネスの世界に通用するマネジメント手法をそのまま取り入れることができない面も多々ある。医療法人や社会福祉法人は利潤の追求が目的ではなく、利用者のQOLの向上や福祉社会の開発を重視しているからである。

 第三の目的は、医療・福祉の臨床(ミクロ)段階と政策(マクロ)段階、それにその中間に位する事業体(メゾレベル)でのマネジメントを個々に論ずるのではなく、これらは相互に絡み合っているので、全体としての整合性のあるマネジメントを考えることが重要であるとの視点からの考察である。それぞれの領域についての研究は進んでいるが、その共通性を求めて一体としてバランスのとれたゴールを目指す試みに本書の特徴がある。

 政策段階でのマネジメントについては、英国のブレア首相が率いるニューレーバーがスローガンとして掲げた「第三の道」政策で採り上げられたNew Public Managementという公共経営理論を詳細に解説している。PFIなど手法で民営化された病院や福祉施設の運営効率を政府の評価機関が事後的に点検して、その成果や問題点を検証しながら進めていく政策評価のマネジネント手法には、わが国の制度改革においても取り入れるべき優れた点があり、本書の問題提起は時宜を得ている。

 本書は、マネジメントを科学したい人、医療・福祉の全体像を捉えたい人、10年単位の大きな流れを知りたい人、新しい研究の視点を求める人にとって必読の一冊である。

 (2007年5月医療経済研究機構発行「Monthly IHEP(医療経済研究機構レター)」No.153 p27所収)

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