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わが国の移民政策を考える 岡部陽二

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  世界では近年人の移動が一段と激しくなり、2015年の移民人口総数は2.4億人(2010年比約10%増)、総人口の3.3%を占めるに至っている。その中にあって、わが国の移民人口は約2百万人、うち半数の1百万人が外国人労働者として働いているに過ぎない。  

  このように、わが国は総人口では世界第
10位の大国ながら、移民人口順位は22位と低く、外国からの移民を極端に嫌っている国となっている。総人口比の移民比率も全世界平均の半分に満たない(図表参照)。

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しかしながら、少子高齢化が急速に進み人口減少が加速する中、これからの日本経済は外国からの移民の働き手なくしては成り立たない。出生率が急回復したとしても、長期にわたって労働力が極端に不足することは目に見えている。現に外国人労働者の数は過去5年で1.4倍となり、「卸売・小売業」では過去5年で外国人依存度が1.8倍に、「建設業」では2.1倍となっている。

  このような状況下で、将来の移民政策を議論するに当たっては、世界の趨勢と切り離せず、移民増に成功している先進国に見習う要がある。

移民大国の中で、米国やカナダは歴史的に元々移民で成り立っている国であり、ロシアは旧ソ連圏からの移民、サウジアラビアやUAEは産油資産に依存した特殊な国である。そこで、民族の純血や文化の独自性を保ちながら移民も積極的に受け入れてきた欧州の独・仏・英の先例を検討することが重要となる。      

独・仏・英の3ヵ国移民政策を比較検証した結果では、フランスが抜群に勝れ、次いで英国がよく、ドイツには問題点が多いと判断される。移民を含む人口政策全般についても、一貫して出生率向上策に注力し出生率2を維持しているフランスには学ぶべき点が多い。

移民受入れの考え方はドイツと仏・英では大きく異なっている。ドイツは移民を自国民に同化させる政策はとらず、長期滞在者として隔離して遇しているのに対し、仏・英では移民の包摂・統合政策を採ってきた。両国とも包摂主義と言っても、英国は移民の文化もできるだけ尊重する多文化主義を掲げているのに対し、フランスは自国民への同化を基本とする統合主義に徹するといったニュアンスの違いはある。 

ドイツでは1950年代に始まった奇跡的な経済復興が深刻な労働者不足を引き起こした。これを補うために「ガストアルバイター(Gastarbeiter)と呼ばれる外国人労働者を募集し、トルコ人を中心とする外国人労働者の大量流入が始まった。ドイツ語のGustは客人を意味するところから、彼らを本格的な移民とは看做さず、中短期滞在の出稼ぎ労働者と認識していた。1973年のオイルショックで一旦募集停止となっが、その後も家族呼び寄せを含む流入超過が続き、EU成立後は東欧諸国からの流入が加わって、移民人口は増加の一途を辿っている。ドイツの出生率は1.38(旧東独地域では1を割っている)と低く、労働力不足は慢性化しているので、今後とも大幅な流入超が避けられない。もっとも、労働市場は完全雇用に近く、失業率は非移民も移民も5%程度と低い。

ドイツでも移民に対する対応は徐々に変わってきている。たとえば、①1999年にはドイツ国内で出生した子供は両親のいずれかが8年以上合法的にドイツ国内に居住する場合には国籍を与える出生地主義に転換、②滞在許可と就労許可の一体化、③高度な技術などを有する移民には永住権を与える、といった施策が打ち出されている。

しかしながら、単純労働者については依然として期限付きの滞在を例外的に認めるという姿勢で抑制的対応を基本としている。ただし、これらのガストアルバイターについてもドイツ社会に統合していく行く必要はあるとの認識は高まり、2005年にはドイツ語の習得を義務付ける制度の導入を試みているが、これらの施策によっても統合の成果は見られないといった批判的な見方が多い。 

一方、フランスでは1974年以来就労を目的とする移民の受け入れを抑制する方針に転換、正規滞在移民のフランス社会への統合を柱とした同化政策を積極的に進めている。フランスは1804年に世界初の出生地主義を採り、同国で生まれた外国人の子供は16歳から21歳の間に自らの意思でフランス国籍を申請することが義務付けられている。

フランスの抱える移民問題は旧植民地のアルジェリアをはじめ中東地域からの低学歴のイスラム系が500万人を占め、経済の低迷下で失業率が20%近くと非移民の2倍に上っているため、社会保障給付費が政府の大きな負担となっている点である。

ロンドンやパリでのイスラム系によるテロの勃発を機に、欧州全域で中東地域からの移民に対する風当たりが強まっているが、テロと移民とを混同するのは間違っている。大きなテロ事件は9.111972年にパレスチナ武装組織が人質をとって立てこもったミュンヘン・オリンピック事件のように外国人によってよって起こされており、最近起こったベルギー国籍のイスラム系若者によるテロは例外的と言える。 

このように見てくると、移民を積極的に増やすべきか否かの議論に入る前に、移民人口が増えても犯罪が増加したり社会的な不安が高まったりしないような社会基盤作りの移民受け入れ政策を確立することが肝要である。この際、手本とすべき国はやはりフランスの採ってきた包摂・同化政策であろう。

具体的には、①血統主義を廃し、日本で生まれた外国人に原則として日本国籍を与える出生地主義に国籍法を改める、②移民には費用雇用者負担で一定レベルの日本語教育の実施を義務付け、公的支援も行う、③移民と非移民間の扱いに差別を設けない労働法制や社会保障給付の体制を整備すること、が最低限必須である。                           

 (2016年4月7日、「戦略検討フォーラム」http://j-strategy.com/forum/2473への投稿)

 

 

 

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