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<書評>元スウェーデン特命全権大使藤井威著「福祉国家実現へ向けての戦略~高福祉高負担がもたらす明るい未来」

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 藤井威(ふじい・たけし)氏は1962年に東大卒業後、直ちに大蔵省に入省、19年間を主計局で勤務し、理財局長などを経て、1997年 9月から3年強にわたり駐スウェーデン特命全権大使を務められた。著者のご講演を初めて拝聴した際に、冒頭で「3年間のスウェーデン勤務で痛感したのは、大蔵省で考えていたことが全部間違っていたことである」と極めて率直に胸中を吐露されたのには、ど肝を抜かれた記憶が鮮明に残っている。

 著者は2002年から「スウェーデン・スペシャルⅠ、Ⅱ、Ⅲ」の三冊を相次いで上梓され、同国の歴史、伝統、文化、社会全般の考察を踏まえて、政策的実験国家と呼ばれるほどの先進的で大胆な社会保障面を中心とする政策展開を精緻に分析、高福祉国家の実像を紹介された。

 本書では、これにフランスの家族政策ややドイツの老人介護政策などの優れた点も採り入れて、福祉国家類型論から説き起こし、高負担(増税)は経済状況を悪化させるどころか、成長戦略の柱となることを実証している。

 もっとも、これらの欧州諸国とわが国とは歴史も風土も異なるので、本書では、高福祉・高負担のスウェーデン型モデルからその方法論を学び、今わが国に真に求められている国家戦略とは何かを問いかけて、これからの日本の行く末を見据えた具体的な提言が示されている。

 著者は、わが国では対GDP比の税・社会保険料負担率が低いことが、低い女性の労働力率や男女間労働賃金格差、低い出生率に繋がっている事実を指摘し、「日本は高福祉国家にならざるをえない」と結論付けている。

 欧州諸国のなかでも経済成長率が最も高く失業率は最も低いスウェーデンでは、負担を伴う子どもにかかる費用を社会全体で支える仕組みが確立されており、高福祉高負担という枠組みの下で「育児の社会化」が実現されてきたからである。

 わが国でも子どもを産み、育てる負担やリスクは社会全体で支え、子どもたちは「公共財」であるという考え方に転換していくことが必要であると力説されている。これには、男女の働き方を見直し、高福祉高負担政策に転換して女性も働き続けられる社会を実現し、信頼・安心できる社会を目指すしかない。

 一方、スウェーデンは社会保障以外の分野ではきわめて「小さな政府」であって、失業や企業倒産を救済しないので、その犠牲者を救うための高福祉であることが、これまでは看過されてきた。

 最近出版された湯元健治・佐藤吉宗著「スウェーデン・パラドックス~高福祉・高競争経済の真実」では、経済成長と高福祉とを両立させた結果として、スウェーデンが世界の国際競争力ランキングで常に上位を占めている秘密が見事に分析されている。両書の提言を経済再生のヒントとして活用し、合理的な政策に改革の実行力が伴えば、わが国にも明るい未来の展望が開けよう。

評者;医療経済研究機構専務理事 岡部陽二

■ミネルヴァ書房刊、定価;本体2,800円+税

(2011年2月21日、㈱法研発行「週刊・社会保障」No.2617「この一冊」欄p26所収)

 

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