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<Book Review>『幹細胞WARS一幹細胞の獲得と制御をめぐる国際競争』

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Cynthia Fox /著 西日伸一/監訳 志立あや,千葉啓恵,三谷祐貴子/訳
一灯舎 四六判 662頁 2009年7月発行 定価(本体3,800円+税)

 幹細胞は,体を構成しているあらゆる細胞になることができ、 かつ何回も分裂することが可能である。この意昧で「細胞の中の王」、「究極の細胞」である。このような魔力を持つ幹細胞は多くの生物学者を魅了してきた。

 医学の面では、特に再生医療における幹細胞の潜在力が注目されている実際、「幹細胞WARS」で述べられているように、幹細胞は、治療という観点からは助けを求める細胞の叫びに応えているように思われる。心臓発作の損傷に反応して血管と心筋の両方を形成し、あるいは神経損傷に反応して死んだニューロンそっくりに変化して置き換わる。さらに、この型の「薬」は我々より賢く、我々より体のことを知っているだけでなく.体もこの「薬」は従来の薬剤より優れていることを知っている。一方で.がん細胞と幹細胞は非常に近い関係にあるとも明らかになっている。

 幹細胞1、中でもヒト胚性幹細胞の研究にはヒト受精卵の破壊が伴うため,この研究には宗教団体や倫理学者、政治家も論争に加わった。ブッシュ前大統領は、宗教的な理由から,新たなヒト胚の破壊を伴う研究には資金援助を行わないと明言し、そのためアメリ力はこの分野の研究では出遅れることになる一方で,バイオ立国を目指す国では国家的なプロジェクトが施行され.先を急ぐあまり非倫理的な研究や論文の担造が起こった。

 本書は,上記に述べたような広い範囲にわたる幹細胞研究の現場を綿密に取材したノンフィクションであり。研究に携わる人達の壮大な人間ドラマである。幹細胞研究の最先端、幹細胞によってバイオ立国を目指す国々、規制を逃れた闇医療、そして幹細胞を用いた最先端医療の現場を研究者だけでなく,政治家や臨床医,患者達の声を交えながら.臨場感をもって生き生きと伝えている。

 理化学研究所幹細胞グループでディレクターを務めている西川教授は,監訳を担当するとともに、本書の原書が出版された後にこの分野に衝撃を与えた山中教授のiPS細胞の偉大さと、それが幹細胞研究の世界にもたらした意義を新たに書き下ろしており、巻末に収録されている。そこで西川教授は「未だに信じられない」と同時に「この途方もない展開が何をもたらすかについては私には想像もつかない」と述べている。読者は、本書で述べられている膨大な研究と対比させる時、山中iPSの全く新しい手法がいかに画期的であるかを改めて実感するとになるだろう。

 生物学や医学の研究に携わる人だけでなく、科学や生命倫理に関心のある読者にとっても読み応えのある本である。

(医療経済研究機構専務理事 岡部陽二)

(2009年11月 20日、羊土社発行「実験医学」Vol.19(12月号)2009 "Book Review"p3176所収)

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