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米国の投資信託に学ぶ

 
 米国ではここ2、3年、ミューチュアル・ファンドと呼ばれる投資信託がブームとなり、本年7月末には残高が邦貨換算で200兆円を超えるに至った。

 特に注目されるのは、投信の70%を個人が保有していることであり、個人の全金融資産に占める投信の比率も92年末で8.5%に達している。今や米国では、4世帯に1世帯が投信を購入し、しかもその半数近くが年収550万円以下の小口投資家といわれている。

 また、投信の中でも株式投信の増加が目覚ましく、本年8月の株式投信純増額は121億ドル(1.3兆円)と月間史上最高を記録した。海外株ファンドヘの資金流入も活発で、米国株ファントに迫る勢いである。なお、全株式投信の平均リターンは昨年年間で6.0%、昨年までの5年間で90.6%と高い。

 一方、わが囲の投資信託は平成元年12月末の残高58兆6,000億円をピークに急減し、本年10月末現在で49兆6,000億円、しかも株式投信はピークの45兆5,000億円から20兆5,000億円へと半減している。個人の全金融資産に占める投信の比率も92年末で3.7%と米国の半分以下である。

 このような不振の原因は主に株式相場の低迷にあるが、制度面の制約も看過できない。これだけ国際化が進んでいる時代に日本株と国内債への投資に限定した投信が一般的というのも納得しにくい。そもそも、昭和26年の法律がほぼそのまま現在の投信制度の骨組みとなっている点が大きな問題を生じる根源と思われる。

 すでに大蔵省は投信制度を大幅に改革する方針を打ち出し、運用評価制度の整備、ディスクロージャー制度の充実、運用商品の範囲拡大などを検討中と報ぜられており、早急に具体策が実現することを期待したい。
 ただし、その際には、米国の投信制度で確立している原則、つまり①自由競争原理の飽くなき追求、②弛まざるイノベーション、③投資家の自己責任の徹底、の3点を基本方針とすべきであろう。

 そこで、以下では米国の投信制度の特徴を5項目に絞って整理し、今後のわが国投信制度のあるべき姿を考えるうえでの参考にしたい。

1.投信マネジメント会社の数の多さと専業会社の存在 
 ミューチュアル・ファンドの運用・、管理を投資会社から委託されているマネジメント会社(投資顧問会社)は350社を超えている。トップのフイデリティー社の運用資産は92年末で20兆円強と大きいものの、上位4社のシェアは28%に止まっている。マネジメント会社の顔触れは証券系、銀行系、保険金社系などの大手金融機関の系列会社だけでなく、専業の独立系など様々である。なお、一社平均の運用ファンド数は11本程度と少ない(日本では投資顧問会社の投信運用兼営は認められておらず、投信運用会社は証券系、新設の銀行系、外資系合わせて26社にとどまり、上位4社のシェアは92年末で72%と高い。なお、一社当りの運用ファンド数は平均300本と極端に多い)。

2.販売ルートの多様性と販売拠点の多さ 
 投信の販売ルートを大別すると、投信運用会社の直接販売(新開広告、電話、ダイレクトメール等)、銀行店舗での販売、それ以外のブローカーによる販売と多岐にわたり、各々ほぼ3分の1ずつで拮抗している。全米で7,600店の証券会社店舗に、銀行店舗(全米で6万8,0OO店)の一角に設置された投信専用の窓口(所謂「プラットホーム」)等を加えると、投信販売拠点の数は極めて多い(現在、日本での投信販売は3,000店の証券会社店舗に限られている)。

3.投信商品の種類の豊富さ
 米国の投信は会社型が中心のため無期限が一般的であり、運用対象は広範な概念の有価証券に加え、有価証券以外への投資も25%まで認められている。この結果、米国の投信協会によるミューチェアル・ファンドの分類も投資方針の類型別に21種類と多い(日本の投信は契約型であり、ユニット型の期間が2~7年程度と短い。また、運用対象が上場株式、公社債等に限定されている)。

4.ディスクロージャーの徹底と評価機関の存在
 
目論見書等には投資目的・方針、手数料だけでなく、ファンド・マネジーの氏名や経歴、マーケット指標と当該投信のパフォーマンスを比較した図表の記載までが義務付けられている。また、半期毎に運用成績、ポートフォリオの詳細をSECへ報告し、公衆の縦覧にも供さなければならない。さらに、リッパー社をはじめ投信の成績評価機関がパフォーマンス・レポートを発行し、新開・雑誌に客観的・中立的情報を提供している(日本ではファンド・マネジャーの氏名の公表はごく稀で、ポートフオリオの内容等のディスクロージャーが不十分である。さらに、評価機関は存在しない)。

5.税制上の優遇措置  
 個人年金の運用をミューチュアル・ファンドで行った場合には、積立金が所得控除の対象となる等の税制上の優遇措置が実施されており、年金運用対象としての人気が高まっている(日本では税制上の優遇措置はない)。

(明光証券株式会社 代表取蹄役会長 岡部陽二)

(1993年12月発行「明光レポート」第63号所収)  

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