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株式市場活性化のための経済戦略会議への構造改革提言~個人株主の視点から~(2001年1月17日)

 年初来の株価低迷対策として与党は「証券市場等活性化対策特命委員会」を設置、経団連などからの要望も出されている。

 先行き不安に根ざしている現下の株式市場活性化策として、場当たり的な対策はむしろ逆効果であり、中長期的視野に立脚した抜本的な構造改革に踏切るべきであるとの方向で大方の識者の意見は一致している。

 この方向での改革案検討に当って最も重要なポイントは、将来株式市場の主役となるべき個人投資家と年金などの機関投資家にとって、どのようにすれば株式を真に魅力ある投資対象とすることが出来るかという視点である。持合い解消に伴い最終的には少なくとも100兆円程度は市場に放出される企業保有株式の引取り手は個人と年金・保険・投信以外には存在しない。

 この観点からの構造改革として、①個人株主優遇税制の拡充、②日本型401k年金プランの早期実現と規模の拡大、③自己株式取得法制の抜本的拡充が不可欠である。この3点に絞っての必要な法律改正の早期実現を切に要望したい。

(1)個人株主優遇税制の拡充

①「個人株式投資優遇税制」の新設

 個人の株式投資について、一個人の株式および株式投信への年間投資額100万円を限度として、配当課税、譲渡益課税を一切免除する「個人株式投資優遇税制」を新設する。

 この税制は1987年にサッチャー政権下の英国で導入され、この制度を利用した累積投資可能額が1999年には一人1,600万円に達し、1,000万人の個人投資家を新規に創出した実績を持つ英国の「Personal Equity Plan」制度に倣ったものである。

 幅広い個人株式投資家を創出するには、将来の株式市場の担い手を1,300兆円もの金融資産を有している個人に託するという政府からの確たるメーセージ発信が不可欠である。

②株式譲渡益課税制度の整備

 本年4月に申告分離制に一本化されることとなっていた株式譲渡益課税は一本化を取止めて、向こう2年間現行通りの源泉分離制との選択税制が存続する方向で決着をみている。しかしながら、大口個人投資家の不安を解消するには2年後の譲渡益税制のあり方を明確に示す必要がある。具体的には、申告分離制に一本化し、①通常所得との損益通算、②譲渡損の無期限繰延べ、③課税最低限の設定、④税率の20%への引下げなど国際的整合性、他の金融商品との整合性にも配慮した改正の方向を早期に示すことが肝要である。

(2)日本型401k年金プランの早期実現と規模の拡大

 日本型401kプランと呼ばれる確定拠出型年金は、当初本年1月スタートの予定であったが、いまだに国会審議も行われず、導入が大幅に先送りされている。

 株式などハイリスク・ハイリターンの投資対象の選択を個人加入者の選択に委ねるこの確定拠出型年金は、米国においては確定給付型を凌ぐ規模に成長しており、株式市場における最大の機関投資家に成長している。

 わが国でもこの新型年金プランへの期待には大きなものがあったが、審議の遅延に加え、税制などとの折れ合いがつかなかった結果、次通常国会に上程される法案では当初案と対比して制度の魅力が半減、年金業界は失望感に満ちている。この際、早急に政治主導で少なくとも当初案の線での制度設計に戻す、具体的には、

① 当初案では加入の対象となっていた国家公務員や専業主婦が除外されたが、これらを対象に含めること

② 企業型年金の拠出限度額が月36,000円(厚生年金等を実施している場合その半額)に抑えられたが、この額を最低2倍に引上げること

③ 企業型と個人型の併用(上乗せのマッチング拠出)が認められないこととなったが、これを認めること

が肝要である。

(3)自己株式取得法制の抜本的拡充

 株式発行企業による自己株式の取得は資本効率の向上、将来の業績に対する自信表明、従業員に対するストック・オプションの賦与、株式需給関係の改善など企業の経営戦略として重要な意義を持っている。そもそも、増資は自由に認めるが、一旦増資した以上、株式を消却して減資することは認めないとする会社制度では、企業が変化に対応できないのは自明の理である。

 平成6年の商法改正により、極めて限定的に自己株式の取得が認められるようになったが、この改正はまさに有名無実で、現行商法の基本線としては依然として「自己株式取得禁止の原則」を堅持している。

 このため、わが国における自己株式取得は最近3年間の実績でも年間1兆円に満たない微々たる額に留まっている。その結果、最近6年間連続して新株発行額差引き後で年間10~30兆円の純消却超過となっている米国と対比して、わが国では毎年数兆円の純株式発行超過となっている。

 自己株式取得自由化ための法的措置のポイントは、次の3点に要約される。

① 金庫株としての保有をはじめとする取得目的の全面自由化

② 自己株式取得の原資として、現行の「配当利益の範囲内」を廃し、資本準備金の充当を認める取得枠の拡大

③ 定時株主総会ではなく、増資同様に取締役会の決議による機動的な実行を認めること

以上

 (2001年4月17日付け経済戦略会議への提言;株式市場活性化のための構造改革提言~個人株主の視点から~)

 

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