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消費者が動かす医療サービス市場

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 岡部陽二が監訳しました最新の話題の書:「消費者が動かす医療サービス市場」をご紹介します。

 本書は、消費者が動かす医療サービス・システムの未来図を大胆に描いた全米待望の書の邦訳版です。この邦訳版は、著者が執筆中の原稿を逐次翻訳しました結果、原著の米国での出版に先駆けての日本先行発売となりました。

 本書にご興味のある方は、「消費者が動かす医療サービス市場に関する書評・紹介のページ」をご覧ください。

 ご医師の側ではなく、私たち消費者に情報と選択肢と決定権を与えることにより、医療サービス市場を活性化できる。

 本書には、その試みによる成功例が豊富に盛り込まれています。医療サービスの価値に見合った価格で高い質の治療を可能にするには、サービスの受け手である消費者の目覚めが鍵となります。

 これからの日本の医療改革と企業経営を考える上で貴重なバイブルとなる最新の米国医療サービス市場動向を紹介する卓越した啓蒙書です。ご興味のある方もしくは医療や経営全般にご関心をお持ちの関係者の方々に本書をご紹介頂ければ幸いです。

 消費者が動かす医療サービス市場(Consumer-Driven Healthcare)
〜米国の医療サービス変革に学ぶ〜

by レジナ・E・ヘルツリンガー
(ハーバード大学経営大学学院教授)

監訳 岡部 陽二
(広島国際大学医療福祉学部教授)
訳  竹田 悦子

(「邦訳版への序文」より抜粋):
 日本の医療システムの問題は、第一点は、その非効率性である。第二点は、現在のシステムではゲノム研究やオーダーメイド医療の分野で遅れをとる可能性が強いこと、第三点は、長い待ち時間や顧客軽視の姿勢が他の経済分野における生産性向上の足かせとなっている点である。本書には、これらの問題点を解決するための処方箋が描かれている。

出版社: シュプリンガー・フェアラーク東京(株)
ISBN 4-431-70997-5
定価 ¥2400円+税

著者・訳者紹介(所属は初刷出版時)

【著者】Regina E. Herzlinger (レジナ・E・ヘルツリンガー)
マサチューセッツ工科大学経済学部卒業
ハーバード大学経営大学院にて博士号取得
ハーバード大学経営大学院教授

【監訳者】岡部 陽二 (おかべ ようじ)
京都大学法学部卒業
広島国際大学医療福祉学部医療経営学科および同大学院教授
医療経済研究機構専務理事

【訳者】竹田 悦子 (たけだ えつこ)
東京外語大学外国語学部フランス語学科卒業.日本語教師,翻訳業

 ネットでご注文頂きます場合には、たとえば紀伊国屋書店のウェブページhttp://bookweb.kinokuniya.co.jp/などに入って、 ISBN番号4-431-70997-5で検索して、ご注文頂くと便利です。

前著、「医療サービス市場の勝者」 もあわせてお読みください。

「消費者が動かす医療サービス市場」に関する書評・紹介

一般紙誌の書評

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医療関係専門紙誌の論評

監訳者の論説・エッセー

一般紙誌の書評

日本経済新聞 2004年(平成16年)1月4日(日曜日) 23頁「読書」欄

 患者主権の仕組み訴える

「毎日たくさんの患者を診ているけれど、病院経営を含めて現揚の状況はいっこうによくならない」。病院勤務医である私の知人はぼやく。以前から言われてきたことであり、「もう聞き飽きた」という人も多いかもしれない。

しかし、現揚の医師は懸命なのに医療のほころびが目立つ、といった矛盾はますます大きくなっている。システム(仕組み)が悪いせいではないか――こう思えてならない。

いま言われている大切なこととして「供給者から需要者に重点を移すこと」がある。需要者=消費者第一に考えない者は市場からそっぽを向かれるということである。現行の医療の仕組みは消費者(患者)のことを考えない最たるものであると思っていたのだが、どうやらこれは世界共通のことらしい。本書の中に次のような記述があったからである。

各国で医療にきしみを生じているのは「理由は明白である。世界の医療制度が消費者以外の第三者に支配されているからである」と。米国では保険会社が、欧州やアジアでは官僚が握っている。消費者の姿はどこにも見えない、と。

医療を良くするには、消費者主権の市場を生み出すメカニズムに尻込みする"専門家"の手に委ねるのではなく、消費者の声が反映する仕組みをつくらなくてはならない、と主張する。

そして、ユーザーが歓迎する医療保険を提供した企業の事例や政府の役割(貧弱だといわれる米国の公的医療保険制度だが、高齢者を対象にしたメディケアは日本の老人医療よりもある面では手厚い)に言及している。そして、SEC(証券取引委員会)が証券市場を活性化させたように、消費者主権の観点から公平性と透明性を確保する医療サービス版SECの設立を提言する。

大学で長く医療経済を研究してきた著者は、『医療サービス市場の勝者』(二〇〇〇年)で現在の医療保険制度に鋭い刃(やいば)を突きつけた。医療保険制度は国によって違うから、米国での指摘がそのまま日本にあてはまるわけではない。しかし、「消費者主権」という考えは共通なものである。このことを教えてくれる。

(岡部陽二監訳画竹田悦子訳、シュプリンガー・フェアラーク東京二、四〇〇円)
著者は米ハーバード大教授。医療経営論などが専門。
                   (編集委員 中村雅美)

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「TOPPOINT」2004年(平成16年)1月発行「ワンポイント・レビュー」46頁

「消費者が動かす医療サービス市場」
レジナ・E・ヘルツリンガー著
シュプリンガー・フェアラーク東京 2003年11月24日発行 2,400円

消費者が主導権を持って動かす医療サービスが、競争原理を生み、市場を活性化させることを、米国の成功例をもとに指し示す。米国でもかつては他の多くの国と同じように、医療制度は消費者以外の第三者に支配されていた。しかし現在、「医療産業こそが経済成長のエンジン」という考えが広がり、起業家精神に富んだ企業が、消費者に情報と選択肢と決定権を与える様々な医療保険サービスを提供し始めている。非効率、患者不在といわれる日本の医療システムを改善するヒントがここにある。

(主要目次)
1章 消費者が動かす医療サービス市場/
2章 確定給付型医療保険に対する不安と嫌悪/
3章 確定給付型医療保険一破綻したセーフティー・ネット/
4章 消費者が動かす医療サービス市場一解決の方法/他6章

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「すこやか健保」2004年(平成16年)1月1日発行 Vol662 「おだいじに」第10回

元旦の計   西村一郎

一年の計は元旦にあり。僕は、いろいろなことを計画することが好きな性質で、「元旦の計」や「突然思いついた実験計画」などを赤い表紙の大判日記帳に書きつけ、いつも持ち歩いている。壮大な計画は、空想しているときが一番楽しいのだが、いざ実行となるとなかなか計画どおりには運ばないものだ。15年くらい前に、ハーバード大学の医学部教育委員会が、「ニュー・パスウエイ」という、医者と患者の人間関係を重要視した新しいカリキュラムを実行した。教授の授業がほとんど廃止され,代わりに患者さんが語るケースを題材に学生が自主的に学ぶという、まったく新しい教育計画であった。助教授になりたてでこの教育改革に巻き込まれ、夏休み中図書館にこもり患者ケースを書いた。果たして、計画どおりに学生は学ぶのだろうか。そして、この未来の医者たちは患者さんの期待にこたえられるのだろうか。最初の数年は散々だった。学期末に届く厳しい学生の評価から、僕自身が、患者さんの語りに耳を傾ける態度を学んだような気がする。

実際、医療の現場では、患者さんから直接、医療サービスに対する評価を受けることはあまりない。患者さんの声の届かないところで計画された医療サービスが、果たしてうまく機能するののだろうか。7年前、UCLAからワイントロープ研究所を任されたとき、研究者と患者さんとの直接交流を前面に押し出すことを提案した。研究所の中央にある半円形のセミナー室は、臨床研究に協力してくださる患者さんと研究者が「語る」場になっている。患者さんの期待に添った研究計画が、ようやく根付いてきたようだ。このコンセプトは、まだ一般的になっていないが、米国国立公衆衛生院という政府機関では、早くから評価してもらっている。

新年を迎え、僕は新しい赤い日記帳に、ハーバードビジネススクール、ヘルツリンガー教授の新刊書、「消費者が動かす医療サービス市場」(邦訳版、岡部陽二監訳、  シュプリンガー・フェアラーク東京)を必読書として書きつけた。医療の現場で、患者さんの語りに耳を傾ける時代が、本当にやってきたようだ。ところで、最近家内が僕の赤い日記帳に目をつけ、連絡メモを貼り付けはじめた。新年は、家内の語りにも耳を傾けるという計画を、元旦の計にいれるべきだろうか。

西村一郎 1956年生まれ。東京歯科大学卒、ハーバード大学大学院終了後、同大医学部研究員,歯学部助教授を経て、現在UCLAワイントロープ再建生体工学センター教授。専門は補綴歯科および組織工学。

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「VISA」(快適生活マガジーン)2004年1&2月号 70頁「BOOK」

「消費者が動かす医療サービス市場」
レジナ・E・ヘルツリンガー著
シュプリンガー・フェアラーク東京 2003年11月24日発行 2,400円

米国と違い、国民皆保険制度のある日本だが、その医療システムには問題点も多い。待ち時間が長いのに、診察は短時間という効率の悪さに不満をもった人は多いのではないだろうか。医師ではなく消費者に情報と選択肢と決定権を与えることにより、医療の質が高まり、効率化にもつながる。本書は、その試みによる米国での成功例が豊富に盛り込まれた専門書。医療サービスの価格や公的保険保障内容を政府が握っている日本への、政策提言にまで結びつけている。

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大阪工大摂南大学「大学新報」2003年(平成15年)12月10日号 4頁「図書出版」

「消費者が動かす医療サービス市場」-米国の医療サービス変革に学ぶ
広島国際大学 岡部陽二教授 監訳

本書は、米国ハーバード大教授のレジナ・E・ヘルツリンガー氏の原著を岡部教授が監訳した。より高い質で低価格のサービスを生み出すことを可能にする消費者主権の医療サービスの仕組みを解き明かすため、その理論と機能について解説している。

初めに、消費者が豊富な選択肢から自分に最適な医療保険を選べるようなシステムの未来図を描いている。次に医療保険の改革に呼応して消費者の要求にこたえるため、医療機関が打ち出そうとしている重要な革新を紹介。最後に、医療の安全性を確保しつつ、公正な自由競争を促進するに当たっての政府の果たすべき役割に言及している。

最新の米国医療サービス市場動向が紹介されており、これからの日本の医療改革と企業経営を考える上で、役立つ内容となっている。

B6判、四二六頁。(シュプリンガー・フェアラーク東京・二、五二〇円)

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医療関係専門紙誌の論評

「医療タイムズ」2003年12月8日 No.1650 17頁 「話題の本-Book Review」

『消費者が動かす医療サービス市場』-米国の医療サービス変革に学ぶ
レジナ・E・ヘルツリンガー著
岡部陽二監訳

A5判426頁/定価2,400円+税
〒113-0033 シュプリンガー・フェアラーク東京
東京都文京区本郷3-3-13 電話;03-3812-0757

著者レジナ・ヘルツリンガー教授の3年前の邦訳書「医療サービス市場の勝者」につづく2冊目の著書。アメリカより早い出版だそうである。前著は日本で9版を重ね約一万部を売っている。「だれが医療サービス革命の勝者となり、敗者となるか?そのカギを握っているのは政府でもなく、医療保険でもない。消費者と医療機関とで成り立つ"市場"そのものであってこの双方向の市場で競争原理が有効に機能することによって

安価で効率的な医療サービスの提供が可能になる」と論じた。新著では、マネジドケア(管理医療)を否定する世の流れの変化の中で、企業家精神に富んだ医療保険会社や各種の企業群が革新的で多様な"消費者主権の医療サービス商品"を続々と提供しはじめて、消費者の支持を得ている、そんな現状を生き生きととらえ紹介している。その中で著者は繰り返し、繰り返し、「医療サービスは消費者主権に徹しない限り改善されない」と訴える。

著者はハーバード大学経営大学院で医療経営論・経営工学論を担当している。監訳者の岡部陽二氏は元住友銀行専務・現在広島国際大学医療経営学科教授、医療経済研究機構専務。

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「医療タイムズ」2003年12月1日 No.1649 4頁 「タイムズ・インタビュー」

広島国際大学医療福祉学部教授・医療経済研究機構専務理事 岡部陽二氏
「2冊目の監訳書『消費者が動かす医療サービス市場』を出版しました」

――2冊目の監訳書『消費者が動かす医療サービス市場』(レジナ・E・ヘルツリンガー教授)を出版されました。前著『医療サービス市場の勝者』(同著者)に次いで日本の医療界に示唆するところの非常に大きい著作です。

「著者は米ハーバード大学経営大学院の専任教授で、歯切れのよい彼女の講義は最も人気のある講座に選ばれています。"消費者主権の医療システム"ちは、消費者と医療機関の双方に自由を与え、競争市場が持っている緊張感をつくり出すことです。日本の医療サービス分野にはそれがなく、診療報酬の支払い方式も均一で医療機関の質向上へのインセンティブがありません。日本の医療サービスの非効率性はそこからきていると指摘し、最近の米国における消費者主権の医療サービスメニューを続々と送り出している企業家たちを紹介しています。米国と日本とは医療現場の実像は大差がなく、学ぶことが非常に大きいです」

――米国のマネジドケア(管理医療)が失敗したあとのトレンドですね。

「医療サービスの世界も『管理』ではなく、消費者が白由に最適の医療を選べるような、創意に満ちた起業家のイノベーションに期待しています。この本は日本の保険医療制度改革と病院経営を考えるうえで、米国の最新の医療サービスを市場動向とあわせて、貴重な実務書ともなっています」

――ところで3年前に出版の本『医療サービス市場の勝者』はいままでどのくらい売れたのですか?

「前著は市場原理をテコにした医療システム改革論を消費者の視点から掘り下げて発展させた医療政策論ですが、この3年間で7版を重ね約1万部売れています。読者からは、日本と米国の医療保険制度や医療サービス水準の違いを超えて共感するところが多い、といった声を多く頂いています。米国でも時事書籍のベストセラーになり反響が大きいようです。新著は米国に先がけて刊行しました。日本の医療改革になんらかのお役に立てば嬉しいです」

――国際金融の世界でグローバルな活躍されてきた立場から一転して医療福祉専門大学の教授に身を投じて6年目。さらに3年前から厚生労働省関連の「医療経済研究機構」専務理事としても重きをなしていますが。

「広島国際大学医療福祉学部医療経営学科の創設にかかわったのですが、よもやここまで伸びるとは当初思ってもいませんでした。ミラクルです。いまは医療福祉学部、看護学部と診療放射線技師、臨床工学士養成の保健医療学部、臨床心理士養成の人間環境部ですが、来年度には薬学部も発足します。教授93人、助教授55人、講師157人を擁する大学になりました」

――入学者や就職状況は?

「広島県下には15の私立大学がありますが本学は定員倍率1.27、入学者数(03年度)1242人で第2位。就職率は全国大学ベスト20の中に入り、11位にランクされています。医師とOT,PTの養成コースはありませんが、この大学の出身者だけで病院がつくれる規模になりました。あとは教育の質です。国立の広島大学とは補完関係にあります。大学院もできました」

――医療経済研究機構専務理事としての仕事は?

「ここは厚労省医政局、保険局、老健局の調査・研究部門といっていい機関ですが全体の調整役をやっています。また、『医療経済学会』の立ち上げのお手伝いもしています。これも、いろんな流派の医療経済学者間の調整役ですね」

――医療の世界に入って6年。いま考えていることは?

「医療保険制度改革の核心は『混合診療』を認め、拡大していくことです。株式会社の参入は医療法人からの転換よりもむしろ大学病院のような大組織に導入する方がメリットがあります。ロースクールのような医療分野の専門職大学院ができて医師が経営学を学び、将来的にはメディカルスクールが設立されることを期待しています」

(11月12日東京・虎ノ門の本社で)

おかべ・ようじ氏
1934年東京生まれ、京都育ち。69歳。57年京都大学法学部卒。57年往友銀行入行、80年同国際投融資部長、84年取締役、84年同ロンドン支店長、85年同常務(欧州駐在)、88年同専務就任。93年住友銀行退職(通算36年間住銀勤務)。その後、明光証券会長、住銀インターナショナル・ビジネス・サービス会長を経て、98年4月広島国際大学医療福祉学部医療経営学科教授就任。大学院教授兼務。01年医療経済研究機構専務理事を兼務。著書に「岡部陽二著作集~一国際金融人の軌跡」「新通貨ユーロの教訓」。2000年「医療サービス市場の勝者~米国の医療サービス変革に学ぶ」(レジナ・E・ヘルツリンガー著)を監訳出版。現在東京三鷹市在住。E-mail;y-okabe@hh.iij4u.or.jp URL; http://www.okabe.org

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・ 監訳者の論説・エッセー

社団法人日本在外企業協会「月刊・グローバル経営」2004年(平成16年)3月号

消費者が動かす医療サービス市場
広島国際大学 教授 岡部 陽二                 

このほど、私の監訳でハーバード大学経営大学院レジナ・ヘルツリンガー教授著の『消費者が動かす医療サービス市場』を出版した。本書は三年前に邦訳版を出版した同じ著者の手になる『医療サービス市場の勝者』の続編として,前書の原著出版後この六年間に起こった米国医療の変貌を詳細に分析のうえ、医療サービス・システムの未来図を大胆に描いた政策提言の書となっている。日本語版は原稿段階から翻訳にとりかかった結果、米国での原著の出版に先駆けて刊行された。

本書のテーマとなっている二つの物語をかいつまんで、ご紹介したい。まずは、医療保険選びの空しさについての著者の実体験からの一部の引用である。

『他の郵便物に混じって、茶色と白のハーバード大学紋章入りの、見慣れた大きな封筒があるのを見つけ、私の心は憂鬱になった。封筒の表には「保険給付のご案内」という文字が花綱に飾られ、まるでパーティーの招待状のようであった。だが、保険給付の選択はパーティーとでは大違いであった。

封筒の中には不吉な予感を与える分厚い冊子が入っており、私の雇用主であるハーバード大学が提供する保険給付プランが並んでいた。保険給付を選ぶ作業の大半は苦にならない。作業の一部は楽しいと言ってもよい。だが、医療保険の選択では、不安と嫌悪感が私を憂鬱にした。医療保険商品には本当の意味での選択の余地がないことに、私は無力感を覚えたのである。医療保険会社と医療機関に関する情報の欠如には、あきれて物も言えない気分にさせられた。

さらに、私の望む医療給付内容や行きつけの医療機関名が含まれていないことに加えて、医療保険の価格の高さには、病気になったり転職したりしたらどうなるだろうと将来への不安を抱かずにはいられなかった。なぜ、私は医療保険についてはこれほど不満を覚えるのであろうか?』

本書には、その答えが的確に示されている。一世を風靡したマネジドケア(管理医療)というコンセプト自体、論理矛盾であるとして全面的に否定する論陣を張ってきた筆者は、マネジドケアが事実上崩壊した現状を踏まえて、医療保険にも消費者の選択肢が豊富な401k年金同様の確定拠出型を導入すべきであると熱っぽく提唱している。

もう一つは名医を素早く探せる評価システムの物語である。

『東海岸のサウスカロライナ州エイケンに住むグレゴリ―・ホワイト・スミスとスティーブン・ネイフェは、病人が自分の症状に最適の「最高の医師」を選べる仲介サービスを行なっている。そのデータベースには、同僚医師がそれぞれの分野の「ベスト」として名前を挙げた三万人以上の医師が登録されている。

この情報には、かなりの需要がある。グレッグとスティーブと知り合ったここ数年のうちに、私は誰かに会うと半ばお決まりのように、その人を彼らに紹介してきた。一人は自分の前立腺ガンの手術をしてくれる「最高の医師」を探していた友人である。別の一人は、子供の発達の遅れを心配する母親で、遺伝子相談の分野で「最高」のカウンセラーを探していた。

彼らの提供するサービスを利用した人々はたいてい、それを絶賛する。何と言っても、情報を探す過程を短縮できることはもちろんだが、それより重要なのは、病に打ちひしがれ、藁にもすがりたい時に、その人々が求めている力と決定権を与えてくれる点である。

他の多くの消費者主権の医療サービス革命家と同じく、スミスとネイフェの二人にも、人々のニーズに合わせて医療サービスの世界を構築するという並外れた才覚がある。ハーバード大学で法学を学んだ二人だが、法律よりも文筆業を選んだ。そして大いに成功し、共著のジャクソン・ポラックの伝記はピューリッツァー賞を獲得した。だが、完璧な人生というのはめったにないものである。この因習を打破する有能なコンビにも、悲劇が訪れた。グレッグ・スミスが脳腫瘍と診断された。ある高名な医師が厳かに、余命数カ月の宣告を下したのである。

スミスは甘んじて、この死の宣告を受け入れたであろうか?とんでもない。

代わりに、彼の命を救ってくれる最高の医師を懸命に探した。その途上で、あまりにも多くの最高とは言いかねる医師らに出会った。その医師らは権威を振りかざし、彼を侮辱し、虐げた。死の宣告を受けた日からおよそ二〇年も経った現在の彼のがっしりした体格と隙のない身だしなみを見れば、彼の探求が成功したことは明らかである。

「最高の医師」というコンセプトは、彼の探求の結果として生まれたものである。スミスとネイフェは自分たちが最高の医師を探す過程で忍ばねばならなかった、長く回り道だらけでお金のかかる屈辱的な苦労の数々を、病気に苦しむ他の人々が味わわずに済むように、この情報提供サービスを生み出したのである』

本書には、このような医療改革の成功や失敗の実例が豊富に紹介されており、わが国の医療システム改革に当たっても、筆者の処方箋が大いに参考となる。本書の概要は、私のホームページhttp://www.okabe.orgに掲出されており、米国からのご注文はシュプリンガー・フェアラーク東京㈱のJiro Adachi"j-adachi@svt-ebs.co.jp"あてにE-mailを入れて頂けば、クレジット・カード払い送料込み25ドルでお届けしている。

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日本証券経済倶楽部機関誌2004年(平成16年)1月 「しょうけんくらぶ」第75号

証券市場に学ぶ医療サービス改革 岡部陽二

このほど、私の監訳でハーバード大学経営大学院レジナ・ヘルツリンガー教授著の「消費者が動かす医療サービス市場」を出版した。本書は三年前に邦訳版を出版した同じ著者の手になる「医療サービス市場の勝者」の続編として,前書の原著出版後、この六年間に起こった米国医療の変貌を詳細に分析のうえ、医療サービス・システムの未来図を大胆に描いた政策提言の書となっている。

著者はかねてより「市場原理を導入したマネジドケア(管理医療)」というコンセプト自体、論理矛盾であるとして全面的に否定する論陣を張ってきた。結果的には、九〇年代に米国で一世を風靡したマネジドケアは、著者の予測どおり消費者に嫌われて「出し渋り医療」のレッテルを貼られ、今や完全に崩壊している。本来、医師と患者の合意により成立すべき医療行為に、医療費抑制のための手段として第三者である保険団体が介入して、ゲート・キーパー医を通さないと専門医に診て貰えないとか、手術の必要性や方式にまで保険団体が口を挟むといった不条理が罷り通ったのは、たしかに行き過ぎであった。医療費抑制のためのマネジドケアに要する管理費用が嵩んで、これが医療費の膨張に拍車を掛けるといった矛盾も発生している。

その結果、二〇〇〇年代に入って、米国の医療費は再び二桁台の急上昇を始めているが、この高騰を負担する資金余力は企業保険にも公的保険にもなく、結局は患者の自己負担増となっている。このような事態に対処して、高い質の医療を持続的に支える方策として、著者は本書において証券市場で成功したいくつかの方式を医療サービス市場にも導入すべきであると論じている。

その第一は、医療保険についても、年金保険と同様に四〇一k型の確定拠出方式を採用すべしという主張である。雇用主企業の保険料負担を抑制すると同時に、消費者の主導権と選択権を充足させる仕組みとして、「確定拠出型」が優れていることの論証が本書の中心テーマとなっている。

一口に医療といっても、その内容はますます多様化・高度化しており、消費者の医療サービスに対するニーズは区々である。たとえば、健康に自信があるので、不慮の事故にだけ備えたいとか、慢性疾患に罹った場合の長期療養のカバーが不可欠であるといったのが個々人の要望であり、まさに401k年金での「高リスク・高リターン」か「低リスク・低リスク」かの選択と同工異曲である。雇用主企業が多様な医療保険商品を品揃えして従業員に選択させることにより、従業員の満足度を高めることができる点に「確定拠出型」のメリットのポイントがある。その一方では、限定されたリスクに対応した保険商品の設計を保険会社に競わせることにより、保険料の引下げを可能にするという考え方である。

今のところ、この「確定拠出型」医療保険は、米国では主に中小の保険会社が手掛けており、二〇〇一年の市場シェアは八%程度に過ぎない。ところが、数年内には大企業も雪崩を打って現行の「確定給付型」から「確定拠出型」の医療保険へ移行するものと、著者は大胆に予測している。この予測が当たれば、「確定拠出型」が民間医療保険の主流となり、大手の医療保険会社も現在の企業向け卸業務から、消費者の選択肢を豊富に取り入れた小売業務へと舵を切り替えざるを得なくなる。

第二のポイントは評価システムである。証券市場には、ムーディーズのような歴史のある格付け機関に加えて、投信のリスクを定量的に測定して五つの星で簡潔に評価するモーニングスターのような評価会社などが多数存在する。その評価を頼りに、企業の内容を分析する能力など持ち合わせない素人であっても、ある程度安心して株式や投信に投資をすることが出来る。もっとも、証券市場における情報の開示度にも問題はあるが、会計基準の統一や評価会社の努力によって、一段と整備が進んでいる。医療の世界にこのような仕組みを採り入れる努力も一部でなされてはいるものの、まだまだ情報不足であり、客観的な評価基準も確立されていないのが現状である。

本書によれば、米国でもっとも信頼されている医師の評価は、医師仲間の同僚評価を基に三万人以上の医師を評価した「ベスト・ドクターズ」である。医師の質を独特の手法で評価する事業をベンチャー企業として始めたのは、ピューリッツアー賞を受賞した伝記作家二人で、そのうちの一人が最初に診て貰った医師から脳腫瘍で余命数ヶ月と診断されたことが、名医探求の動機となった。彼の命を救ってくれた医師を自分で探し出した経験が、「ベスト・ドクターズ」というコンセプトとして結実した。彼らのサービスを受けた人々の多くは、そのサービスを絶賛している。それは、単に情報を得る過程が短縮されるというだけではなく、利用者に決定権を与え、生きる力を与えてくれるからである。

第三に、証券市場の効率性を高めるための知恵の中で、医療界にも採り入れる必要があるのは,医療版SEC(証券取引委員会)の設立であると著者は主唱している。証券市場における取引価格は情報によって形成されているが、その情報の公正さを担保しているのが、SECの機能である。情報そのものは企業や評価機関から発信されるので、SECの役割は「真実を告げる義務」を売手に課して、すべての重要な事実を公開させることにある。一九三四年に,証券市場の信頼を回復させるための切り札としてフランクリン・D・ルーズベルト大統領が設立に踏み切ったSECが、その後の米国証券市場の健全な発展に寄与した効果には絶大なものがあった。

一方、医療サービス情報については、情報量も限られており、その質の評価がまだ初期の段階にあることは誰しも認めるところである。何を公開し、どう評価すればよいのか、どこまで公開すべきか、個人の特性に応じた調整はどうするのか等々未解決の問題が多い。消費者のほとんどが現在入手できる情報には見向きもしないのは当然であろう。このような状況から脱却して、消費者の信頼をかちとるには、医療機関に真実を告げる義務を課して、それを常時監視する公的機関の設置が必須であると著者は力説している。

医療サービスの質を高めるには、消費者に選択肢と決定権を与えることが何にもまして重要であること、そのために不可欠な正しい情報を医療機関などが豊富に提供し、その真実性を担保する仕組みが必要であることを、本書は具体的に分かり易く懇切に説いている。

(個人会員、広島国際大学教授、医療経済研究機構専務理事)

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