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北アイルランド(Northern Ireland)~英国切手の魅力シリーズ(24)~ 



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 20083月に北アイルランドを慶祝する4枚の記念切手シートが発行された(上掲)。

左上;Carrickfergus Castle1177年に建設されたベルファスト湖に面する強固な城で、1928年までイングランド、スコットランド、フランス軍などの侵攻に耐え抜いてきた。

右上;St.Patrickのイメージ図、聖パトリックはアイルランドにキリスト教を広めた聖人。聖パトリック斜め十字は北アイルランドを表す紋章として英国旗のユニオン・ジャックにも組み込まれている。

左下;Queen's Bridge and Friendship Beacon、ベルファストの中心部を流れるラガン川に架かる橋と夜空に輝く信号塔。

左下;Giant's Causeway、世界自然遺産に登録された六角形に綺麗に割れた柱状節理群の雄大な光景。

 英国の正式国名は‟United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland"で、Graet BritainEnglandScotlandWales3Nationsが存在する島の名前である。
サッカーなどの国際試合は元々この4か国にフランスなどが加わって発足した経緯から、現在でもそれぞれが独立した1か国として認められている。ラグビーについては、南北Irelandの合同チームが1か国として扱われている。

 郵便切手についても、1958年来England以外の3Nationsで、エリザベス女王肖像のみの通常切手をそれぞれ別個のデザインで発行するようになった。2008年にはこのRegional Stamps発行50周年を記念した通常切手9枚のシートが発行された(下掲)。

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上段;左から1958年発行3ペンスのWales、同Scotland2008年発行15ペンスのWales、同Scotland

下段;左から1958年発行3ペンスのNorthern Ireland1967年発行6ペンスのWales、同Scotland、同Northern Ireland2008年発行の15ペンスNorthern Ireland。額面は発行当時の額面に代えて‟1st"100gまでの定型書簡の翌日は配達料金)と記されている。

 英国のEU離脱方針決定に伴い、スコットランドの分離独立運動が再燃しているが、北アイルランドの方がさらに深刻な問題を抱えている。

 アイルランドは1801年以来全島がイングランドに併合されてきたが、1920年に成立したアイルランド統治法によって南北に分割され、それぞれに自治権が付与された。南部の26州はその後独立したが、英国からの移民が多数を占める北アイルランド6州は英国残留の途を選んだ。国土の大半が緑の少ない土漠が多い南アイルランドを分離し、緑に覆われた肥沃な北部だけを英国がとったという筆者の印象である。

 1960年代の後半には社会的に差別を受けていたカトリック主体の貧民層の支持を受けたアイルランド共和軍(IRA)とプロテスタントのユニオニストを中心とする自治政府の対立が深刻化し、両者間の武力闘争に発展した。IRAは発足当初からテロを武器としたナショナリストの武装集団であった。

 この北アイルランド紛争に終止符が打たれたのは、1998410日にベルファスト郊外のストーモント城で行われた和平会議での合意であった。この合意に向けて執念を燃やしたのは当時44歳のブレア首相であり、この若き首相のチャレンジ精神と楽観主義の勝利であった。北アイルランドに平和が確立したことを受けて、20125月には何と100年ぶりになる英国王の隣国アイルランド往訪が実現したのである。

 北アイルランドはイングランドからのインフラ投資支援にも支えられて経済も安定しており、スコットランドのような独立志向はない。一方、英国がEUから離脱すると、南アイルランドとの間にできる国境障壁が大きな問題となってたちはだかってくるので、南北合邦の機運が徐々に盛り上がるものと予測される。

北アイルランドの住民は申請をすれば、南のアイルランド共和国のパスポートも取得できるため、EU離脱決定後にこの共和国パスポート申請が急増している。さらに、現状では英国帰属派のユニオニストが多数を占めているが、カトリック系の出生率が高く、人口のバランスが崩れつつある。これらの事情が重なって、さきの国民投票でEU残留が圧倒的多数を占めた北アイルランドでは、EU残留の方途として英国から分離して南の共和国と合邦ないしは連邦化すべきとの動きが一挙に高まる可能性も否定できない。

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