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<投資教室>ユーロ復権とわが国への示唆

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 円の対ユーロ為替相場は、本年7月25日につけた94.24円をボトムとして反転し、11月14日には101.74円と8%のユーロ高・円安となっている。それでも、2008年央につけたユーロ高ピーク時の168.43円と比べると40%近いユーロ安・円高ではある。ただ、図1に見られるとおり、ユーロが急落したのは2008年の後半であって、その後は米ドルの下落をほぼパラレルに下落、ユーロの独歩安ではない。

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 円ドル相場にも円安調整の兆しが若干顕れているものの、いまだ時期尚早と見られ、当面は円高基調であろう。ユーロについても、大方の為替アナリストは「上値は重い」と見ているが、筆者はここへきてユーロは来年末にかけて110円~120円へ向けて大幅に切り上がるものと予測する。ユーロ独歩高の展開である。

 単一通貨ユーロは、創設10年を経てリーマンショックの影響を受けて動揺したが、限界に直面してその存在意義を失ったわけではない。むしろ、今回の問題発生は、ユーロが究極的に安定した通貨となるために必要な試練であり、名実ともに最適通貨圏を形成するための改革に繋がる好機であったものと捉えるべきであろう。

 ユーロの根源的な欠陥として指摘されるのは、通貨の管理はECB(欧州中央銀行)に移されたにもかかわらず、財政の管理は各国政府に残されたために、財政危機が必然的に金融危機に繋がると言う点である。しかしながら、この点についてはユーロ創設前から議論が尽くされ、ユーロ創設の前提条件として各国の公的債務(財政赤字)は毎年GDPの3%以内、総残高は60%位内に抑えることが条約で定められていた。

 この財政規律が遵守されていれば、今回のような騒動は起こり得なかった。ところが、違反国に対する罰則の定めもなかったため、数字をごまかしたギリシャは論外としても、ドイツを含むほとんどの加盟国が、自らが締結した条約に違背して、この限度を超えて国債を増発したことに問題があった。 そこで今回は条約を改正して、①構造的な財政赤字はGDPの0.5%以下とする、②各国は憲法に目標値を明記する、③欧州司法裁判所がこの条約に反していないか判定する、④毎年の財政赤字がGDPの3%を超えた国には制裁を科す、⑤総債務がGDPの60%を超えている部分は別管理として20年で償却するなどの新条約を締結した。

 これらの条件が遵守されるまで当面は、ECBによる加盟国国債の無制限買入で対処し、来年以降はESMという国債買入のための恒久期間設立により対応する。最終的には各国の国債発行に替えてユーロ圏共同債の発行を目指している。ドイツのメルケル首相はこれに反対しているが、最大野党の社会民主党党首であるシュタインブルック前財務相はユーロ圏共同債を支持しており、いずれは実現する。 

 ユーロ動揺の原因は財政規律の不遵守に加え、ユーロが低金利で借りられるようになった結果として招来されたインフレ格差にある。1999年以降、南欧諸国の物価はドイツに比べて大きく上昇、景気も上向いて、図2に見られるように過去10年間でユーロ圏全体の平均GDP成長率2.0%に比して、ギリシャやアイルランド、スペインなどは4%近い高成長を謳歌してきた。その結果、賃金コストも上昇して、南欧諸国は輸出競争力も失った。これを是正するには、南欧諸国の賃金を2~3割方切下げ、ドイツの賃金上昇を待つしかない。

 もう一つは、金利低下の恩恵が全ユーロ加盟国に均霑し、図3に見られる通り、ギリシャやスペインもドイツと同じ4%程度の低金利で10年物国債を発行できたことであり、これは金融の常識を覆した信じられない現象であった。ドイツ国債とギリシャ国債が10年間も同一金利で発行できたのは、銀行のリスク資産査定で信用格差に拘わらず国債のリスク掛け目は零とされたので、銀行は限度を無視して無制限に購入できたためである。南欧諸国やアイルランドで不動産バブルが発生したのは当然である。

 EUでは各国政府を経由しない形で域内救済基金からスペインなどの銀行に直接資本を注入する一方、リスク査定の欠陥を是正すべく銀行同盟を設立して域内銀行の監督行政一元化に合意した。さらにEU共通の預金保険制度を創設する。銀行の国債購入が制約されると必然的に財政は健全化され、銀行同盟は財政同盟への足掛りとなる。 

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 翻って、日本がEU加盟国であれば、現在の財政赤字GDP比10%を0.5%にまで削減するとともに、国債の総残高のGDP比60%超分を20年で償還するには、毎年50兆円近いプライマリーバランスの黒字を出す要がある。金利が急騰すればさらに増やさなければならない。これは消費税を25%に引上げても対応できない高いハードルである。

 ユーロを一途に売り込んできた投機筋も「ユーロ崩壊は絵空事」と分かった今、次なる標的を日本円に定めてくるのは必定である。

 

(日本個人投資家協会理事岡部陽二)

(2012年11月15日、日本個人投資家協会月刊紙「きらめき」2012年11月号所収)

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