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<書評>湯元健治・佐藤吉宗著「スウェーデン・パラドックス~高福祉・高競争経済の真実」

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 北欧の高福祉国家には、のんびりと遊んでいても国が面倒を看てくれるというイメージがあるが、実体はどこよりも厳しい競争社会である。その知られざる謎を解き明かしてくれる「眼から鱗」の意欲作である。

 パラドックスと言うと、「牛乳や肉など脂肪消費量が多いと心臓病死亡率が高くなるが、フランスではこの消費量が世界でももっとも多いのに死亡率は逆に低い。その理由はポリフェノールをふんだんに含む赤ワインの消費量が多いから」という発表から1992年に引き起こされたワインブームを想起する。「フレンチ・パラドックス」とは、このワインの逆説のこととばかり思っていたところ、経済の話で、同名の本(榊原英資著、文藝春秋)が昨年の6月に出版されている。これは、充実した子育て支援などで高い出生率を維持し、官僚主導の経済政策でまずまずの経済成長をしている安定感のあるフランスを手本にすべきという説である。

 そこで、スウェーデンとの実質経済成長率をリーマン・ショック前の比較的安定した10年間の平均をとって比較して見ると、フランスは2.4%であったに対しスウェーデンは3.5%と1%以上も高い(日本は1.2%)。2010年のIMF予測値もフランス1.6%、スウェーデン4.4%となっている。

 いずれにせよ、高福祉・高負担の大きな政府を維持しようとすれば、その高負担を支える強固な経済成長の持続が必須である。高負担を吸収できるだけの充実した経済基盤と強い国際競争力を持ち続けるために、スウェーデンではどのような経済政策が採られてきたのであろうか。

 スウェーデンのでも造船業をはじめとする主要産業が衰退し、大規模な銀行倒産も経験するなど1970~80年代には景気が低迷していた。このような経済危機から学んだ教訓は、国際競争力を失った衰退産業は保護せず、むしろ市場原理に任せて整理・淘汰し、他方で将来的に有望視される新しく産業を育成・創造することで、産業構造の転換・高度化を図ることであった。今回の金融危機で大きな打撃を受けた自動車産業についても、GMとフォードに売却されていたサーブとボルボ・カーズにも自国資本のスカニアにも一切支援の手を差し伸べていない。

 産業政策の転換だけではなく、1991年以降、①税制の抜本改革(所得税率・法人税率を引下げ、間接税を引上げ、環境税を導入)、②福祉改革(エーデル改革)、③インフレーション・ターゲッティングの導入、④財政健全化を法定、⑤年金制度の大改革と、いずれも世界が注目するような大改革を矢継ぎ早に実施してきた。

 スウェーデンは社会保障以外の分野ではきわめて「小さな政府」であるために、失業や企業倒産を救済しないので、その犠牲者を救うための高福祉であることが、これまでは看過されてきた。本書では、経済成長と高福祉とを両立させた結果として、世界の国際競争力ランキングで常に上位を占めている秘密が見事に分析されている。これを経済再生のヒントとして活用し、合理的な政策に改革の実行力が伴えば、日本にも明るい未来の展望が開けよう。

 (評者 岡部 陽二 医療経済研究機構専務理事)        

(2011年1月1日、外国為替貿易研究会発行「国際金融」第1220号、p69所収)

 

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