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始動し始めたばかりのライツ・オファリングに打つべき手は?

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 東証は増資手法の一つとして既存株主に追加出資を求める「ライツ・オファリング」の規制強化に乗り出した。

今年725日付けで、東証の上場制度整備懇談会が「我が国におけるライツ・オファリングの定着に向けて」という答申書をまとめ、これに基づいて年内にも具体的な措置を講ずるとされている。

ライツ・オファリングは、2009年にルールが整備され、昨年から活発に利用されるようになったばかり。動き出したばかりの株主割当増資方式のどの辺りに問題があると言うのであろうか。


日本では「ノン・コミットメント型」が大多数

株式を用いた資金調達方式としては、株主割当も公募も第三者割当も1950年代から存在していたものの、1970年代頃までは専ら株主額面割当が主流で、その後は公募が主体となり、2000年以降は第三者割当も多用されている。

また、新株予約権導入は1982年に遡るが、これを株主割当増資に採り入れてハイブリッド化したライツ・オファリングの導入は欧州諸国にかなり遅れて2009年と最近のことである。ライツ・オファリングとは、既存株主の保有株式数に応じて、当該会社の株式を一般的に増資前の市場価格よりも低い価格で新株を購入できる新株予約権を無償で割り当てる増資手法で、「ライツ・イッシュー」ともいう。

ライツ・オファリングは、公募増資による既存株主の権利の大幅な希釈化や経営支配権が一挙に移動する第三者割当増資に対する批判を踏まえて、既存株主の納得性を高め、既存株主の利益により配慮した方式として市場活性化の一環として導入されたか株主割当の新方式である。

ライツ・オファリングにはコミットメント型とノン・コミットメント型の2種がある。

コミットメント型は行使されなかった予約権を証券会社が引き受けて行使する方式で、予定額を満額調達できる。

これに対し、ノン・コミット型は行使されなかった新株予約権は失効し、調達額が失効分だけ目減りする。

欧州ではコミットメント型がほとんどであるが、わが国ではこれまでのところノン・コミットメント型が25件中22件と大多数を占める(今年3月末までの決議分20件の明細=末尾掲出の表2)。本稿では、このノン・コミットメント型の問題点に絞って論じたい。


東証は「不可解」な案件の手口を精査すべき

上記の東証懇談会答申書での分析の要旨は、次の通りである。

まず、22件(20社)のライツ・オファリングをほぼ同期間の公募・第三者割当増資と比較したところ、表1の通り純損失と無配の会社が14件、債務超過が4件(3社)と他の増資方式に比べて圧倒的に業績不振の会社が多いことを指摘している。

一方、権利行使の割合は平均78.2%と予想外に高い。また、新株予約権が市場で売買された売買回転率の平均は137.9%と異常に高い。

次に、ノン・コミットメント型ライツ・オファリングの横造上の問題点として証券会社に引受責任がなく、増資の合理性について第三者による客観的な審査が行われていない点を指摘している。

これを踏まえて、制度整備の方向性としては、①証券会社による引受審査に準ずる審査を行なうこと、②株主総会決議などの株主の意思確認を行なうことを提言している。

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 この報告書の不可解な点は、業績不振会社の増資例が多いと言うだけで、実際どのような不適切な増資が行なわれたのかを具体的に指摘していないことである。業績不振の会社が新方式の増資で自力回復できれば、それこそ制度の狙いに合致した好ましいことではないか。

現に、債務超過はすべての増資会社で解消し、株価も概ね上昇している。8月末の株価が予約権行使価格を下回っているのは3件のみであり、株主利益が阻害されたとも言えない。

しかしながら、ネット情報などを見ても、ライツ・オファリングをめぐり不正が横行しているのは事実のようである。精査すべき対象は20件余しかないので、それぞれのケースについて問題点を洗い出せば、自ずと解決策も見えてくるはずである。

東証は詐欺まがいのライツ・オファリングを見逃すな

一例を、総合情報誌『FACTA』6月号の記事から挙げてみよう。同誌によると「ライツ・オファリングは、とりわけ経営に関与している支配株主にとって、やりたい放題の仕組みといえる。昨年7月のJトラストのケース。最大調達額が1千億円超に上り、筆頭株主の藤沢信義社長が約500億円の個人マネーを投じるとして注目された。が、蓋を開けてみれば、藤沢社長は行使期間中に大量の持ち株を売り、その資金で新株予約権を行使していた。  結局、支配力を低下させることなく、差引き23億円ものキャッシュを手にしていた。それを知らずに権利行使し現金を払い込んでいた一般株主は、振り込め詐欺まがいのやらずボッタクリに逢ったようなものである。」と解説している。この差益がどのような手口で得られたものかは詳らかではないものの、大口株主の株式売買に制約は課せられていないので、株価と新株予約権価格を人為的に操作することは十分可能であろう。

JPX日経400銘柄でもあるJトラストは、1社でこれまでのライツ・オファリング総調達額の8割近くを占めている。Jトラストの増資で、詐欺まがいと言われる事態があったのであれば、これを放置して置いてはいけない。

ライツ・オファリングをめぐっては、ほかにも不可解極まりない事例が多数報じられている。これは事前審査がないとか甘いとかいった問題ではなく、制度や市場管理に構造的な問題が潜んでいるのではないか。

東証は赤字会社の比率といったマクロの議論ではなく、具体例を1件ごとに検証して、詐欺まがいの不正を排除する方策を講じて頂きたい。

角を矯めて牛を殺すことがあってはいけない。

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(日本個人投資家協会副理事長 岡部陽二)

(2014年9月18日発行、日本個人投資家協会機関紙「ジャイコミ」2014年9月号所収)












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