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<有訓無訓>合理は国を超える-真の共通言語を磨け

 岡部 陽二
(住友銀行(現三井住友銀行)元専務)

 金融行政が護送船団方式華やかなりし1977年、英国の有力紙「タイムズ」の紙面に「スミトモ・パイオニア」の文字が躍る記事が掲載されました。当時、住友銀行(現三井住友銀行)の欧州証券子会社、住友ファイナンス・インターナショナルが、世界に先駆けて、ユー口市場での変動利付きCD(譲渡性預金)を開発し、英国当局から承認を得ました。記事は、それを取り上げたのです。

 変動利付きCDは、金利が変動する定期預金のことです。CDはもともとは指名債権で自由には譲渡できなかったのですが、米国やユーロ市場では、証券化して市場で流通する商品を開発していました。

 しかし、我々が開発するまでは、金利はすべて固定で、変動金利のCDは金融先進国の英国でも、存在しなかったのです。そのため、商品化には日英の当局とタフな折衝を強いられました。私は住友ファイナンス・インターナショナルの社長として、その陣頭指揮を執りました。

 我々が変動利付きCDを開発したのは、金利変動型のシンジケートローンが伸び盛りで、このビジネスに適した長期の資金調達方法が必要だったからです。それは調達金利が貸付金利を上回る逆ざやリスクを防ぎ、投資家から広く資金を調達できる手段です。これらの条件を満たす資金調達法を探る中で、変動利付きCDを開発し、英国当局に商品化の許可を申し出たのです。

 当初、彼らからの回答は「変動利付き債券ならば可能だが、預金は前例がないため不可能」でした。しかし、我々は債券ではなくCDで認めるよう、交渉を続けました。当時の日本の金融行政では、債券発行できる銀行は長期信用銀行などに限られ、住友のような都市銀行は発行できなかったからです。

 CDで発行するポイントは、「長期の定期預金は固定金利」という通念を、いかにして打ち破るかでした。英国では、「CDは証券であり、将来支払われる利息が確定していなくてはならない」というのが、一般的な見解でした。

 しかし、英国は判例法の国のため、金利が変動する場合、証券の要件を満たすかどうかは、最終的に法務当局の判断に任されていました。長い交渉の緒果、当局は「需要があり市場が認めれぱ、証券としての条件を具備する」という趣旨の判断を下しました。

 こうした緒論を得られたのは、市場が必要としている商品なのだと、我々が粘り強く主張し続けたからだと思います。主張に合理性があれぱ、前例や国籍、時には格式の違いなども乗り越えられるのです。同じ思いは、それ以前の経験からも感じていました。

 20代半ばの時に米国の支店に配属された際に、一介の平行員だった私は、フォード・モーターなど名だたる企業のCFO(最高財務責任者)と面会できる機会を何度も得ました。「御社の状況を分析すると、こうしたファイナンスが必要です」と納得できる理屈を提示できさえすれば、役職など関係ないのです。日本の場合、役所の課長に話すのは部長クラス以上など形式的な要件も必要ですが、海外でのビジネスは内容が伴えば、それで済むのです。

 国内市場の成熟化で目本企業は今後、ますます海外に成長の機会を求めていくでしよう。その時、相手国の文化や慣習など様々な配慮が必要ですが、忘れてならないのは、自分の主張に合理性があるのか、でしょう。(談)

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 (Nikkei  Business 2008年5月12日号、p1)

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